>  >  > 【怪談】「ゆうれい いる」

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――怪談サークル「とうもろこしの会」会長・吉田悠軌が、この夏、絶対に語らねばならない選りすぐりの怖い話をお届けします。

どうも、オカルト・怪談を研究している吉田です。
皆さんは、幽霊って本当にいると思いますか? その辺りにまつわる奇妙な話を、“マツダさん”という知り合いから教えてもらいました。

幽霊がいるのかいないのか、皆さんにも、ご参考までに報告しておこうと思います……。


ゆうれい いる(マツダさんの話)


ある平日の、仕事がひと段落した合間のこと。

マツダさんが会社の後輩と雑談をしているうち、ふとしたきっかけで「おばけというものは本当にいるのかどうか」という話題になったそうだ。

怖い話の好きなマツダさんだったが、本当に幽霊が実在するかどうかといえば

「いないと思うけどな」

そう断言したところ、間髪いれずに後輩のミヤギ君が

「おばけはいますよ。誰も覚えてないだけです」

などと返してきた。

いきなりの強い言葉に意表をつかれたマツダさん

「何で、そんなに断言できるの?」

彼に理由を聞いてみることにした。


ミヤギ君は、数年前の就職を機に、実家を離れたそうだ。

だが始めてのアパートに引っ越してすぐ、生活のはしばしで奇妙な感じを受けることが多くなった。

部屋に1人でいる時に限って、どうも何かがおかしい。

最初のうちは、生まれて初めての一人暮らしで舞い上がっているだけかと思っていた。

しかし、それだけが原因でないことは、すぐに分かった。

自分でも気づかないうちに、「時間が飛んでいる」ことが頻発するようになったのだという。

少しぼんやりしていたというレベルではなく、まるでその部分だけ映像をカットされたかのようにキレイに記憶が抜け落ちている。

テレビを観ていたはずなのにトイレの中にいたりと、部屋の中で移動する場合もあった。

飛んでしまう時間も少しずつ長くなり、数十分も過ぎている事すらあったという。

(寝ているうちに動き回ってるのかな……)
突然、夢遊病のような体質になったかと心配もしたが、その他の体調が悪い訳ではない。

気になりつつも、ずるずると原因を探るでもなく生活していた、そんなある日。

ベッドの上で本を読んでいたと思ったら、ふいに机の前に座っている自分に気がついた。

また例のやつかと思って時計を見ると、確かにかなりの時間が過ぎている。

毎度のことなので慌てもしなかったが、机の上を見ると、メモ帳代わりに使っているノートが開かれて置いてあった。

何かと思い、ノートに目をやると

ここやばい

そんな文字が、ボールペンで書きなぐってあった。

もちろん自分で書いた記憶はない。

意識が飛んでいる間に、知り合いが部屋に訪ねてくるとも考えにくい。なにより、いつもの自分の字とそっくりだ。つまり、記憶の無いうちに自分が書いたもののようである。

(……なんだよ、これ)

寒気を感じたミヤギ君は、ノートを机の引き出しに閉まった。そしてきっちりと鍵を閉めて、忘れることにしたそうだ。

それから数日後。

気が付くと、今度は台所に立ってしまっていた。

あれ、またやっちゃった。

なぜだか手にはケチャップの容器を握りしめている。

シンクの上には、まな板が寝かせてある。

なんだよ、料理でもするつもりだったのかよ。

そう思ってよく見ると、白いプラスチック製のまな板の上に、真っ赤なケチャップが細く垂らしてある。
明らかに文字のようになっているそれは、こう読み取れた。

ゆうれい いる

さすがに不気味になったミヤギ君は、引っ越しを決意した。

しかし仕事の関係もあるため、不動産探しや手続きがスムーズに進まない。

だらだらと同じ部屋に住み続けながら、荷造りだけでも少しずつ進めていたそうだ。


そんな中、机の中を整理しようと、引き出しの鍵を回してみた。

しかし取っ手を引いたところ、ガタリと途中で止まってしまう。

つまり、引き出しは始めから鍵がかかっていない状態で、鍵を回したことで施錠してしまった、ということになる。

数日前にノートをしまった時、しっかり鍵をかけたことには自信がある。

「……あれから開けてないよな」

ためらいを覚えながらも、彼は鍵をもう一度、逆方向に回した。

すうっと、今度はスムーズに引き出しが開く。

中を覗き込むと、ノートはいつも通りの場所にきっちりと置かれていた。

おそるおそるノートを取り出し、パラパラとめくる。

少し前に、「ここやばい」という文字が書かれてあったページを開く。

確かに、その文字は残されていた。

だがその下に、まるで返答するかのように、こんな5文字が書き残されていたのだ。

きにするな

明らかに自分の字だった。

ミヤギ君は取るものもとりあえず、新居も適当に決めてしまい、大急ぎで引っ越しを終えた。

それからは時間が飛ぶこともなく、ミヤギくんは平穏に暮らしているそうだ。

たまに、あの部屋で何があったのか、抜け落ちた記憶の中に何か残されていないか、なんとか思い出そうとする時もある。

すると体が拒否反応を示すように気分が悪くなり、なにも考えることができなくなってしまうそうだ。

「だから皆、本当はちょくちょく幽霊を見てるんですよ。でも恐怖で記憶を無くしてるんです」
ミヤギ君はマツダさんに、そうキッパリと断言した。

「それか、なにものかに記憶を消されているのか……そのどっちかですね」

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■吉田悠軌(よしだ ゆうき)
怪談サークル「とうもろこしの会」会長。怪談やオカルトを「隠された文化」として収集・研究している。著書に『放課後怪談部』。編集長を務める同人誌『怪処』ではオカルト的な場所を広く紹介。
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