>  >  > 19世紀ヨーロッパを風靡した「骨相学」の真実
【拝啓、澁澤龍彦先生】

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骨相学

【拝啓 澁澤先生、あなたが見たのはどんな夢ですか?~シュルレアリスム、その後~】
――マルキ・ド・サド、そして数多くの幻想芸術……。フランス文学者澁澤龍彦が残した功績は大きい。没後20年以上経ったいま、偉大な先人に敬意を払いつつ、取りこぼした異端について調査を進める――

■黒人は劣った人種?

 アメリカ南北戦争前夜を舞台にした映画『ジャンゴ 繋がれざる者』で、人種差別主義者の農場主カルヴィンが演説を振るうシーンがある。主張の内容は、なぜ黒人は劣った人種なのか、である。

 彼は言う。

「白人と黒人の頭蓋骨の形は違う。そして黒人は従うことに関する脳の領域がほかの人種よりも大きい」

 それが「骨相学」というものであり、白人である自分が生まれついて奴隷気質のある黒人たちを差別するのはきわめて正しいのである、と言うのだが……。

 人種差別の問題は置いておいて、農場主カルヴィンにここまで強固な信念を抱かせた「骨相学」とはいったい何なのだろうか? 頭蓋骨の形で人間の何かが分かるのだろうか?

■骨相学とは?

 骨相学とは19世紀の欧米で一世を風靡した学問だ。ドイツ人医師フランツ・ガルによって広められたとも言われているが、その内容は以下の通りである。

phrenologie.jpg
画像は、「techno-science.net」より

【人間の脳というのは芸術や哲学、友情あるいは殺人や高慢のようなそれぞれ性格の違う「27」の器官に分けることができる。その違いは頭蓋骨の大きさにあらわれるので、頭蓋骨の形を見れば、その人間がどんな性格の持ち主であるか判明するというのだ】


■文豪バルザックも熱狂した!

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画像は「phrenology.org」より

 たしかにわかりやすい。なにしろ頭の形を見ただけで、その人間のことがわかるのだから。そして骨相学はその単純さゆえに、19世紀の欧米で大流行することになる。

 熱狂したのは一般庶民だけはない。かの文豪バルザックも骨相学に傾倒し、生みの親であるガルの伝記を執筆する計画まで立てているし(1835年)、小説『アルシの代議士』では、精神医学と並ぶ偉大な学問として太鼓判を押しているである。


■骨相学のゆくえ

 大人気の骨相学だったが、やがて急速に人気を失うことになる。進歩した大脳中枢に関する研究によって、骨相学の論理が否定されていったからである。

 人々は幻想から解き放たれて、ようやく当たり前のことに気づいたのだ。頭蓋骨の形だけで、その人間のことを判断することはできない、と。

 最後に個人的な思い出をひとつ。

 数年前、筆者は地下鉄のホームから転落して電車に轢かれるという大事故にあったことがある。全身の骨は折れ、病院に運び込まれたときには意識不明の重体。その後どうにか意識は取り戻したものの、ぐちゃぐちゃに砕けた頭部は見るも無残で、本来の自分の骨の代わりに代替物を埋め込むという整形手術を受けることになった。

 というわけで、いま、僕の頭蓋骨の右半分はセラミック・カーボン製である。

 もちろん頭の形は変わった。

 しかし友人たちによれば、事故の前後で僕の性格はまるで変わっていないらしい。あいかわらずアホみたいな顔して、アホみたいなことばかり言っているよ、とのことである。

 だから骨相学はやはり間違いなのだ。頭蓋骨の形なんかで、その人間のことがわかるわけがないのである。経験者が言うのだから間違いない。そう思う。

※推薦図書

・『バルザック論』E・R・クルティウス著(みすず書房)
「魔術」の章において、19世紀当時の流行科学(骨相学や観相学)と小説作品との関係が論じられている。

【連載:「シュルレアリスム、その後」まとめ読みはコチラ

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■天川智也(あまかわ・ともや)
1980年生まれ。早稲田大学仏文科卒業。古今東西の奇書を求めて日々奔走している。おもな作品にNHKドラマ『ルームシェアの女』(フランス語作詞)等がある。

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