【名画に隠された裏話】

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――絵描で作家・漫画家、旅人でもある小暮満寿雄が世界のアートのコネタ・裏話をお届け!

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イラスト:小暮満寿雄

 アート史上、燦然と輝くルネサンス絵画だが、画家たちが暮らしていた環境は必ずしも快適ではなかった。何よりヨーロッパは国どうしが陸続きだった上、人口も密集しているため、いつも疫病が蔓延していた。中でもペストは死の象徴として人々に君臨していた恐怖の大王だった。

 日本では黒死病とも呼ばれたペストだが、ヨーロッパでは14世紀から18世紀頃にかけて猛威を奮い、特に14世紀の大流行ではヨーロッパ全体の人口の三分の一から、半分が消えてしまったと言われている。正確な死亡者数はわかっていないが、犠牲者は8千万人以上とも言われ、何とこれは現在のドイツ一国、エジプト一国の総人口とほぼ同じなのだ。感覚としては、いくつもの国が丸ごと消えてしまった勘定になる。

 だが、19世紀に入るまでのヨーロッパは花の都パリにしてもロンドンにしても、バケツに溜めた糞便を2階から道路に捨てていたりと、不衛生きわまりなかった。ペストはネズミについたノミが、人から人に伝染したというから、まさにその環境はペスト菌を培養しているようなものだったろう。

 おまけに毎日のように出る死体の処理は埋葬に追いつかず。きちんと埋葬される人はまだいいが、身元のわからない貧しき人々の亡骸はそのまま放置されるか、形だけ土をかけておくだけ。中世ヨーロッパにおいては、そこかしこに蛆と蠅のたかる死体が、そのまま放置されているという、まさに地獄絵図だったのだ。

 さて、こちら、ハンス・ホルバイン「死せるキリスト」をご覧いただきたい。

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「死せるキリスト」


 西欧にキリストの絵は星の数ほどあれど、これほど悲惨に描かれたキリストはない。まさに「オー、ジーザス!」である。

 ロシアの文豪ドストエフスキーは、スイスのバーゼルにを立ち寄った時にこの絵を見て衝撃を覚え、小説「白痴」の中で、主人公ムイシュキン公爵にこう語らせている。

キリストの弟子がこの絵を見たなら、はたして彼の復活を信じただろうか? いや、キリスト本人が磔刑の前にこの絵を見たなら、はたして自ら十字架を背負っただろうか

 ご想像通り、これは実物の死体をモデルにして描かれたものに違いない。一説にはライン川から引き上げられたドザエモンをモデルに描いたとも言われるが、死体の様子からして水死体ではなかろう。

 だが、この骸がどこの誰で、どう死んだのかは大した問題ではない。

 それより、復活前の墓場のキリストを描いたものだというが、本物の骸となったモルグのキリストが本当に復活などできるのだろうか

 そんなドストエフスキーの疑問もさることながら、この絵の本当の恐ろしさは別のところにある。

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コメント

1:匿名2016年6月14日 08:13 | 返信

中指を立ててるのは偶然か皮肉か。絵の世界は深いですね。

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