>  > 英語恐怖症の米国人作家、シュールな生活
【シュルレアリスム、その後】

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【拝啓 澁澤先生、あなたが見たのはどんな夢ですか?~シュルレアリスム、その後~】――マルキ・ド・サド、そして数多くの幻想芸術……。フランス文学者澁澤龍彦が残した功績は大きい。没後20年以上たったいま、偉大な先人に敬意を払いつつ、取りこぼした異端について調査を進める――


■読解不能な文章

 いきなりだが、以下のセンテンスを正しく読める人はいるだろうか?

“Tu’nicht tréb über èth hé zwirn!”

 おそらく読める人はいないだろう。なぜならこの文章、フランス語、ドイツ語、ヘブライ語の単語を(文法的な正しさはいっさい無視して)組み合わせたものだからである。

 ちなみに内訳(?)は次の通り。

 Tu’nicht→ドイツ語

 trébucher→フランス語

 über→ドイツ語

 èth hé→ヘブライ語

 zwirn→ドイツ語

 しかしいったい誰が、何のために、こんな暗号のような文章を組み立てたのだろうか?


■英語恐怖症だった、ルイ・ウルフソン

 上記の文章の作者は、ルイ・ウルフソンというアメリカ人である。ウルフソンは極度の英語恐怖症(統合失調症の一種)を患っているので、アメリカ人にもかかわらず英語をいっさい使用しないのである。そのため、ウルフソンはすべての文章を独自のシステムを使って他言語へ翻訳しなければならない。

 ちなみに上記の一文の原型は、

“Don’t trip over the wire!”(針金につまずくな!)

 である。

 なんの変哲もない英語のセンテンスだが、統合失調症のウルフソンにとって英語は恐怖以外の何物でもない。

 というわけで、音声の似た、しかし意味のまったく異なる他言語へ(たとえば英語のDon’t はドイツ語の Tu’nicht と、英語の trip はフランス語の trébucher と、英語のover はドイツ語の über と、英語の the はヘブライ語の èth hé と、 英語の wire はドイツ語のzwirnと発音が似ている)翻訳しなければならないのだ。


■ウルフソンの奇妙な生活

wiruson.jpg
画像は、ウルフソン。「DAI」より


 ルイ・ウルフソンは1931年ニューヨーク生まれ。母親と同居し、絶えざる恐怖と戦いながら日々生活している。

 たとえばウルフソンはほとんど一日中、フランス語やドイツ語など外国語学習をして過ごすが、理由はもちろん英語と接する機会を極力少なくするためである。

 ときどきニューヨーク市内の散歩も試みるが、そのときはもちろん万全の体制で臨む。携帯用短波ラジオに聴診器を接続し、耳からいっさいの英語を締め出すのである。しかし、こうしたさまざまな努力にもかかわらず、もっとも苦労するのが食事だ。

 ウルフソンは缶詰を常食としているが、英語で記述されたラベルを読むことができないので、どの缶詰を選ぶかは「勘」に頼るしかないのである。その日の食事がツナ缶になるか、トマトペーストになるか、コンビーフになるか、あるいはスイートコーンになるか…。缶詰を開けてみるまで分からないのである。

 母親との確執もまた、ウルフソンの生活を困難にする一因になっている。なぜならウルフソンの母親は同居する息子の病気を快く思っておらず、絶えざる攻撃(大声で英語の歌を歌う、息子の外国語学習を嘲り笑う、等)をしかけてくるからである。

コメント

1:匿名2017年3月26日 00:02 | 返信

恐怖症の原因、母親な気がする

記事見る限り母親がなんかちょっと可笑しい、日本で言う毒親に近しいか軽度かの精神疾患を患ってそうだし。

母親の話す言葉が怖い→母親の話す言葉は英語→英語は怖い言語→英語恐怖症
みたいな流れで彼は英語恐怖症になってるんだと思う。

酷い思い出って人や性格にもよるが、8〜9割は恐怖や恐怖症になるしね、それが身近な人(両親兄弟や祖父母従兄弟)や身近な物が原因率もかなり高いし。

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