>  >  > 民俗学者・谷川健一が明かす裏日本の姿

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 本や雑誌、インターネット、そしてSNSによって膨大に情報が飛び交う現代社会において、その情報の真偽をチェックする判断力は重要だ。しかし、ウソかホントかばかり気にしていては「ケツの穴が小さいヤツだ」「細けえことはいいんだよ」などの誹りは免れない。むしろ、真実よりも甘く、大事なウソを楽しめてこそ、余裕がある大人として認められるのではないだろうか。本連載「教養としての神秘主義」では、そんな大人のためのミステリー情報をお伝えしていく――。

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魔の系譜』(講談社学術文庫 (661)

教養としての神秘主義 第3回
民俗学者・谷川健一

 気がつけば年の瀬が押し迫り、2014年がいよいよ近づいてきた。あまり趣味のいい行為とはいえないかもしれないが、この時期になるとWikipediaの訃報リスト(2013年版)を眺めながら1年の振り返りをしたくなる。17年間の介護を経て亡くなった大島渚や、「鉄の女」マーガレット・サッチャー、ルー・リード……、実に今年もさまざまな人が亡くなった。そして、民俗学者の谷川健一が亡くなったのも今年。2013年8月24日のことだ。谷川は1921年に生まれているから、92歳まで生きたことになる。今回は、驚くべき日本の民俗文化を明かす彼の業績を紹介したい。


■谷川健一の功績

 谷川は編集者の職を辞して以降、終生「在野の民俗学者」として活動した。文献収集とフィールドワークによって得た情報を、文学的想像力によって解釈する彼流の歴史記述は「谷川民俗学」とも呼ばれる独自の世界観を打ち立てた。

 これだけでは「トンデモ学者」と勘違いされてしまいそうだが、2007年に文化功労者に認められるなど、その実績は折り紙付きであり、彼からの影響を隠さない人も多い。特に鬼才漫画家、諸星大二郎の諸作品は谷川の著作から多くのアイデアを得ていることは間違いない。諸星の代表作のひとつである『妖怪ハンター』シリーズの主人公、稗田礼二郎は和歌や寓話から奇怪な事件の謎を解き明かしていくが、谷川もまた和歌や寓話のなかに隠された古(いにしえ)の人々メンタリティーを読み解こうとする。稗田のキャラクターには谷川の著述スタイルが色濃く反映しているのだ。


■沖縄の異界史を探し続けた

 1970年に刊行された『沖縄 辺境の時間と空間』(三一書房、現在は冨山房インターナショナル)は、谷川による69年に八重山・宮古諸島を訪れた際の鮮やかな沖縄紀行文とともに、知られざる島々の歴史を示している。その姿は一般的に我々が「沖縄」に対して抱くイメージとかけ離れた異界だ。そこでは、琉球王国が薩摩藩に下って以降、1637年~1903年まで、266年間に渡って八重山・宮古諸島に課せられた「人頭税」に苦しんだ人々が描かれる。ある者は税を逃れるために自ら不具者となり、ある者は開墾のためにマラリアの巣窟へと強制移住をさせられた。波照間島では、人頭税のないユートピア、幻の島、南波照間島(ぱいぱてぃろーま)信仰が生まれた。谷川が分析する搾取される者が歌いつないできた労働歌は、初期のブルースのように力強い。

 複雑なのは人頭税に苦しむ人々を虐げたのは、薩摩藩からではなく沖縄本島から派遣された役人であったことだ。現代の我々は「沖縄」を、ビーチやリゾート、そして「ウチナータイム」に象徴される穏やかな県民性といったナチュラル/ロハス的なイメージで捉えがちだ。そのイメージは沖縄も八重山も宮古にも、乱暴に適用されているように思う。しかし、かつては「沖縄」の島々のなかで支配する者、支配される者の関係が生まれ、分断されていたのである。この暗く、重い歴史は、米軍基地問題とも地続きに感じられる。『沖縄 辺境の時間と空間』以降、沖縄が日本に返還されてからも谷川はこの搾取され続けたこの土地への関心を持ち続けた。

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