>  > 中国版・寺山修司が造り出す「エロ×宗教×故事」

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初出 日刊サイゾー 2011.03.05

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「Lamb of God」 ©Tianzhuo Chen

 『AKIRA』『ドラゴンボール』『ドラえもん』......子どもの頃、僕らの心をアツくさせた漫画やアニメが、海の向こうに住むアジアの子どもたちの心にも火をつけていた。今や日本人だけのものではなくなった、ジャパニーズ・ポップカルチャー。その影響を受けて育った、アジアの才能豊かなクリエーターたちを紹介します。

アーティスト
Tianzhuo Chen(ティエンチョウ・チェン)

 ティエンチョウ・チェンは、北京生まれのアーティスト。現在はロンドンをベースに、作品制作を続けている。解剖図、中国の水墨画、油絵やインスタレーションなど、さまざまな手法で作られた作品には、エロチシズム、宗教、物質界が混在し、極めてシュールな彼の世界観を表している。
 

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『上海異人娼館/
チャイナ・ドール』
(紀伊國屋書店)

 1990年代に育った中国のほとんどの子どもたち同様、小さい頃は『エヴァンゲリオン』や『ドラゴンボール』、『セーラームーン』などのコミックを普通に読んでいたティエンチョウだが、ロンドンの大学でファイン・アートを学んでいるときに、日本のニューウェーブ映画にハマったという。特に寺山修司監督の作品は、彼にとって最大のショックだった。

「彼のショートフィルムが僕の作風に与えた影響は計り知れません。その"不条理さ"に夢中になりました。彼の作品には、サイケデリックなイメージと、深い批評性のバランスが存在している」

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<画像をクリックすると拡大されます>
シリーズ「Sick」(2007)より ©Tianzhuo Chen

 ちなみに最も好きな寺山作品は「映画だと『上海異人娼館/チャイナ・ドール』(80)、ショートフィルムは、本当に全部好きなんですが、『トマトケチャップ皇帝』(70)が僕のマスターピースです」。

 「ジャパニーズ・カルチャーは、"不条理"な思想を、多くのレベルで許容しているように思います。それは映画やコミックや、他のさまざまなアートとして表現されているだけでなく、根本的に日本人の考え方に根ざしているものだと感じます。とにかく、日本文化における不条理な精神性からは、とても大きな影響を受けました」

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<画像をクリックすると拡大されます>
「Göbekli Tepe」(2010)より ©Tianzhuo Chen

 彼はまた、中国とイギリスという、複数の文化の中で育ち、学んだという経験を持つ。一見相反する文化同士のバランスをどう取っているのだろうか。

「僕は"バランス"ではなく、むしろ異文化の"衝突"と呼んでいます。それは"自分は何者か"と"どう作品を創るか"の間の衝突でもあります。中国文化も西洋文化も、僕にとって大きなインパクトであることに間違いはないし、どちから逃れることもできない。二つの異なる文化を背景に持つことが、僕に"異種交配"的な作品を創らせるのだと思うし、その衝突を美しいと思っています」

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<画像をクリックすると拡大されます>
「The Donne Triptych」 ©Tianzhuo Chen

 85年生まれのティエンチョウは、いわゆる「八十后(パーリンホウ)」。中国の一人っ子政策後に生まれ、文革や貧困など、いわゆる中国の負の部分を知らない新しい世代だ。しかし、自分が「八十后」だと感じるのは、誰かにそう言われたときぐらいだという。

「メディアや大衆が、国の変化を、怪奇現象のようにはやし立てました。もちろん、85年以降とそれ以前では、経済や文化に大きな違いがあり、これ以降の世代は、前の世代と比べると、オープンマインドで、新しいライフスタイルを受け入れているのは確かです。でも僕は、それは"西洋化"の一プロセスに過ぎないと思う。ごく普通のプロセスであり、遅かれ早かれそうなるものなのです。僕らの世代が革命的に見えるとすれば、それは僕たちがこの変化のただ中にいるからだと思います。僕らもまた、変化の産物であり、中国のような国でこうした変化が起きると、僕らを畸形扱いすることにつながるのだと思います」

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<画像をクリックすると拡大されます>Untitled  ©Tianzhuo Chen

 アーティストであると同時に、自分の立ち位置を冷静に分析する批評家でもあるティエンチョウ。彼が現在手がけるプロジェクトは、ギャラリーや公共の場所を、一時的な礼拝所に変える「テンポラリー寺院」の制作だ。

「人々が生活する場所が崩れ、モラルや信仰が崩壊している、ということを問いかけたいんです。身近な場所に置かれた神秘的な崇拝物が醸し出すユニークなコンビネーションは、見る人を、善と悪、秩序と混沌、低俗と神聖が等しく並べられた世界に誘うでしょう」

 プロジェクトのテーマは、世界的に共通するものだから、発表する国を限定したくはないという。日本で彼の作品世界を体験できるチャンスも近いのではないだろうか。
(取材・文=中西多香[ASHU])

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●ティエンチョウ・チェン
アーティスト。1985年北京生まれ。セントラル・セントマーチンズ・カレッジ オブ アート アンド デザイン、チェルシー・カレッジ オブ アート アンド デザインでファイン・アートを学び、現在はロンドンをベースに活動。在学中からロンドン、北京、上海のギャラリーを中心に、グループ展に多く参加。2006年の上海ビエンナーレにも参加している。
<http://www.tianzhuochen.com/>


なかにし・たか
アジアのデザイナー、アーティストの日本におけるマネジメント、プロデュースを行なう「ASHU」代表。日本のクリエーターをアジア各国に紹介するプロジェクトにも従事している。著書に『香港特別藝術区』(技術評論社)がある。<http://www.ashu-nk.com >
オンラインTシャツオンデマンド「Tee Party」<http://teeparty.jp/ashu/>

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