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カラヴァッジョ

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品格

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小暮満寿雄

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芸術

■激しい気性、そして、才能が止まらない

 早描きのカラヴァッジョは下絵も描かず、一気に仕事を2週間ほどで仕上げると、あとの2カ月は“おトモだち”の取り巻きを従え、腰にナイフをブラ下げては、ケンカと決闘&乱闘三昧にあけくれる毎日。当時カラヴァッジョが起こした警察沙汰は、わかってるだけで6年間に10数件というから驚きだ(1年に2回は留置所というわけね)。

 こんな人物が人気画家でいたら、同業者が面白いはずがない。

 同業の画家の嫉妬も激しく、「ゴロツキや売春婦をモデルに絵を描いている(ホントの話だが)」「無知蒙昧でフレスコも描けない」などといった誹謗中傷の集中砲火を浴びるのだが、火のように激しかったカラヴァッジョがまわりとどれだけ衝突したか、それはそれは凄かったことだろう。

「カラヴァッジョは自分の絵に嫉妬し、陰でわいせつな悪口を言いふらしたり、作品に石を投げた」

 バリオーネという同業者からはそんな訴えを起こされた記録がある。トラブルが服を来て歩いてるようなカラヴァッジョだったが、彼の性格上それはなかったろう。カラヴァッジョはバリオーネを「モノの数に入らんヘボ絵描き」と相手にしてなかったそうだし、法廷でも「私は聖母マリアを描く時も、花や果物を描くのも同じ能力だと思う」と言っている。

 嫉妬していたのはバリオーネの方だったのだ。

 人格的にはぶっ壊れていたカラヴァッジョだったが、アートに関しては本質を知っていた。ある人が「もう少しギリシャ彫刻でも学んではどうかね」と言ったところ、「私には彼らがいる」と町を歩く人たちを指差したというが、これはカラヴァッジョの絵画に対する姿勢をよくあらわしたものだったのだ。もちろんホモセクシャルも彼にとっては、同じ対象であったのだろう。

 そんなカラヴァッジョの作品の特徴は光と影以外にもうひとつ。「ゴロツキや売春婦をモデルに絵を描いている」という中傷がホントだったように、当時の人たちを当時の服装で描いていることだ。今でいえば、ジーパンにTシャツのキリストを描くようなものだろうか。

 こちら「聖母の死」

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 これは、そんなカラヴァッジョの本領を発揮した作品で、マリアのなきがらには婚約者に捨てられてテヴェレ川に身投げした水死体を使っているというのである。

 画家が死体をモデルにするのは、当時はこっそりあったことだが、噂を聞いて驚いたのが依頼主のサンタ・マリア・デッラ・スカラ教会の司祭たちだ。まさに教会のメンツ丸つぶれである。

 今見れば、どこがどう問題なのかわからない絵だが、神聖なヴァージン・マリーに、男に振られて身投げをした水死体をモデルにするとはもってのほかと、司祭たちは受け取り拒否をする。権威主義の教会に、そんなものはモノともしないカラヴァッジョ。だったら最初から頼まなければ良いのにと思うが、それほど当時の名声が高かったのだろう。

 1度だけ、教会がこの絵を公開した時は黒山の人だかりだったというから下世話なものだが、大衆にとっては面白い話だったというわけだ。


■破滅型人生の終焉

 そして、1608年5月。ついにその日は訪れる。

 ゲームのもつれで乱闘になったカラヴァッジョは、友人の1人を刺し殺してしまう。

 おたずね者になったカラヴァッジョだったが、その才能を惜しむ支援者の庇護を受けてローマからナポリ、シチリアを転々とする。ナポリやシチリアにはカラヴァッジョの作品がいくつも残されているのだが、全体に暗く悔恨の心が絵にあらわれているようだ。

 ナポリでは多くの依頼があったにも関わらず、カラヴァッジョはそれを捨ててマルタ騎士団に入団する。おそらくは人を殺したという後悔の念がそれをさせたのだろう。修道士として1年ほど敬虔な生活を送るも、心の中にいる虫が騒いだのか、高位の騎士とケンカして投獄される。
業としか言いようのないトラブルメーカーだ。

 最期は教皇の恩赦をもらうため、ローマに向かう途中にマラリアにかかり38年という短い生涯を終える。文字通り、絵に描いたような破滅型人生の終わりだった。

 ちなみに、死体をモデルにしてスキャンダルとなった「聖母の死」を、後年買い取ったのが、絵画史上もっとも品行方正で成功した画家リューベンスというのだから人間というのは面白い。けっきょくないものがほしくなるというわけか。マンガも合わせてご覧いただきたい。

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作・小暮満寿雄

■小暮満寿雄(こぐれ・ますお)
1986年多摩美術大学院修了。教員生活を経たのち、1988年よりインド、トルコ、ヨーロッパ方面を周遊。現在は著作や絵画の制作を中心に活動を行い、年に1回ほどのペースで個展を開催している。著書に『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』(まどか出版)、『みなしご王子 インドのアチャールくん』(情報センター出版局)がある。
・HP「小暮満寿雄ArtGallery
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