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【拝啓 澁澤先生、あなたが見たのはどんな夢ですか?~シュルレアリスム、その後~】――マルキ・ド・サド、そして数多くの幻想芸術……。フランス文学者澁澤龍彦が残した功績は大きい。没後20年以上たったいま、偉大な先人に敬意を払いつつ、取りこぼした異端について調査を進める――

■奇妙なポートレート写真

 なんとも形容しがたい写真で注目を集めたシュルレアリストがいる。彼女(彼ではなく)の名前はクロード・カーアン。フランス語の綴りはClaude Cahun。名前のクロード(Claude)は男女ともに使われる名前で、苗字のカーアン(Cahun)はあまり見かけない姓だ。

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画像は、Claude Cahun「Wikipedia」より

 そんなカーアンが注目され始めたのは1980年代のこと。この頃のパリといえば、シュルレアリスムの中心的存在であったアンドレ・ブルトンの死から10年以上が経過し、シュルレアリスム運動はあらたな局面に移行しはじめる一方で、ミシェル・フーコーが『性の歴史』を完成させるという、いわゆる「クィア理論」が流行しはじめた時期とも重なる。

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画像は、YouTubeより

 そんなムードの中で脚光を浴びたのがカーアンの写真なのだ。「剃髪・男装・性別不明なヌード・ブッダやサタンへの仮装」…そして、実生活では一人の女性を一生の伴侶としたそのライフスタイル。今回は、そんなカーアンの作品と生涯を紹介したい。


■義姉シュザンヌ、そして年下の青年への恋

 カーアンは1894年、フランスの西部にある都市ナントで生まれた。父は出版社を経営。父の弟(カーアンにとっては叔父)は小説家で文化的にも経済的にも恵まれた環境で育った。当時の出版状況からいえば、おそらくカーアンは幼いころから写真現像の現場にも立ち会っていたのではないかと思う。写真家としての素地が育まれるには充分な状況だったに違いない。

 だが十代後半は、多感な少女にありがちだとは思うが、「拒食症、自殺未遂、エーテル(麻酔薬)吸引」に足元をすくわれるなど、苦しいものになってしまう。同時にこの頃、2歳年上の義姉シュザンヌに恋をする。そしてここから話がすこし混み合ってくるのだが、ほぼ同時期に年下の青年ボブにも恋をする。

 ボブの職業は漁師で、骨格のしっかりした健康的な青年だったという。ボブにはオスカー・ワイルドの小説を貸すなどして淡い感情を持ち続けた。健康的な青年がオスカー・ワイルドをどんな気持ちで読んだのか想像もつかないが、2人の関係はボブが結婚するまで続いたらしい。

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画像は、YouTubeより

 ちなみにカーアンはこの後も、女性にも男性にも、そしてカップル自体にも恋愛感情を持っている。不思議なセクシャリティだと思う。女性であるカーアンが女性を愛せばレズビアンだし、女性も男性も愛せばバイセクシャルだが、カップル自体も愛するとはいったいどういう位置づけになるのだろう。もっともカーアンはそういった定義や分類にはあまり興味がなかったのかもしれないが。

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