• このエントリーをはてなブックマークに追加
  • コメント0

 本や雑誌、インターネット、そしてSNSによって膨大に情報が飛び交う現代社会において、その情報の真偽をチェックする判断力は重要だ。しかし、ウソかホントかばかり気にしていては「ケツの穴が小さいヤツだ」「細けえことはいいんだよ」などの誹りは免れない。むしろ、真実よりも甘く、大事なウソを楽しめてこそ、余裕がある大人として認められるのではないだろうか。本連載「教養としての神秘主義」では、そんな大人のためのミステリー情報をお伝えしていく――。

教養としての神秘主義 第10回
昔のお坊さん


■透明人間ハレンチ僧侶:大乗仏教の創始者・龍樹(ナーガルジュナ)

200px-Nagarjuna.jpg
真ん中が、名高い龍樹画像は、Wikipediaより

 2~3世紀ごろのインドで活躍した龍樹(ナーガルジュナ)という僧侶は、大乗仏教の創始者として知られている。彼の名前は世界史の授業にも出てくるから聞き覚えがある人が多いだろう。彼が記した『中道』といった仏典は、4世紀に鳩摩羅什(クマーラジーヴァ)によって中国にもたらされ、中国仏教の礎を作ることとなった。そう、龍樹は仏教史に大きく名を残した人なのである。

 しかし、彼がとんでもない事件を起こしていたのを知る者は少ない。龍樹の生まれはカースト制度のバラモン(神官)階級だった。幼少期から聡明で天才肌として名を馳せていたが、出家前は性欲にまみれた悪ガキだったという。そして彼は「自分の姿を人から見えなくする秘術」を習得すると、美女が集められた王宮に忍び込んではレイプをするという悪行を繰り返していたというエピソードが残っている(出典: 中村元『龍樹』講談社学術文庫)。

 結果、この悪行によって「欲が災いの根源である」と彼は気づき、出家することになったのだが(レイプ被害者の古代インドの美女たちが気の毒でならない……)、龍樹のような不可思議なエピソードを持つ僧侶は、彼に限った話ではない。中国への仏教の伝来当初から6世紀6世紀までの高僧たちの伝記をまとめた『高僧伝』(邦訳は岩波文庫から全4巻)は、僧侶たちの面白エピソードが満載の見逃せない書物である。キリスト教でも『黄金伝説』という100人を超える聖人たちの奇蹟譚を集めた本があるけれど、『高僧伝』の奇想天外は『黄金伝説』に勝るとも劣らない。そのいくつかのエピソードを紹介しよう。


■女犯・天才・破戒僧:龍樹の著作を広めた、鳩摩羅什(クマーラジーヴァ)

250px-Kumarajiva_at_Kizil_Caves,_Kuqa.jpg
鳩摩羅什。イケメンだったという噂も

 龍樹の著作を中国に広めた鳩摩羅什は、仏典の漢訳に貢献した人物として『高僧伝』で取りあげられているが、彼の神秘譚も収録されている。鳩摩羅什の父親は役人の一族から出家した僧侶、母親は王族の娘だった。この母親も聡明で、一度聞いた言葉を暗唱してしまう天才的な記憶力を持っていたというが、鳩摩羅什を身ごもった瞬間に普段に増して「不思議な理解力が備わったことに気づいた」という。

 彼女は突如としてそれまで知らなかった「天竺の言語に通じ、質問する言葉はきまって奥深い趣きを窮め、みなの者はそろって感嘆した」のである。その様子に驚いた位の高い僧侶は「これはきっと智慧のある子を懐妊したのだ」と評した。このように鳩摩羅什は生まれる前から、天才を証明されていた。

 その後、無事この世に生を受けた鳩摩羅什は、7歳のときに母親とともに出家し、遍歴をしながらさまざまな仏典を理解していった。晋の都、長安に招かれたのは401年のこと。そこで彼の桁外れの理解力が後世に残らないことを惜しんだ当時の君主は、無理矢理に10人の美女を押しつけ、彼の子孫を世に残そうとした。そして鳩摩羅什は還俗させられる(つまり、ヤッてしまったということだ)。

 それからはひたすらサンスクリット語で書かれた仏典の漢訳を続けたというが、彼が死んだときにも神秘のエピソードが残っていた。死後、彼の屍は火葬されたのだが、その舌だけは灰にならずに残っていたと言うのだ。焼けずに残った舌はもっぱら真実を語り、虚偽を述べなかったことの象徴であるらしい

コメントする

お名前
コメント
画像認証
※名前は空欄でもコメントできます。
※誹謗中傷、プライバシー侵害などの違法性の高いコメントは予告なしに削除・非表示にする場合がございます。