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分析心理学の父、カール・グスタフ・ユングは、「シンクロニシティ」という概念を唱えた。一見、関連がないように見える事象が相互につながり合っていることを説いたのだ。かつてメディアを賑わせた凄惨な事件や悲劇的な事故。その現場に残された“遺物”をたどると、忌まわしい記憶と、我々が過ごす平凡な日常をシンクロさせる見えない糸が浮かび上がってくる。事件記者が綴る暗黒のアナザーストーリー「悲劇の現象学」シリーズ

【第9の遺物 西の毒婦と「SAY YES」】 借金の返済を逃れるため、男性2人を殺害したとして殺人などの罪で逮捕・起訴され、今年3月の控訴審判決で一審死刑判決が支持された鳥取市の元ホステス上田美由紀被告(40)=上告中。 美由紀被告と被害者の“馴れ初め”は鳥取市内のデブ専門スナックだった。2009年11月の事件発覚から4年半が過ぎ、日本で最も人口が少ない県で起きた事件の衝撃は薄れつつある。だが、件のスナックは煌々とネオンを点し、男たちは微妙な魅力に惹かれていた。 事件の舞台となったスナックは、鄙びた歓楽街の裏通りにある。判決文によると、美由紀被告は2009年4月、日本海の海岸でトラック運転手の男性(47)に睡眠薬を飲ませて溺死させた。男性は迫る美由紀被告に相当な金額を貢いでいたが、キリがないため270万円の返済求めていた。 また、DVDプレーヤーなど高級家電53万円分を買いあさったが、ツケを催促した電気店経営の男性(57)を、同様の手口で山間部に近い川で殺害した。公判で美由紀被告は同居の男性(50)の犯行説を主張。この男性とトラック運転手は件のスナックの常連客だった。 ■美由紀被告が働いていたスナックの“敏腕”経営 美由紀被告は地元の高校を中退後、結婚情報センターの事務員として勤務したが退職。市内のスナックを転々とした後、ヘッドハンティングされて2005年11月から2年間、問題のスナックで勤務していた。 「ここのママはコスい。事件直後、殺到した報道陣を招き入れ、『美由紀ネタ』を有料で情報提供した。うちも1万円取られたよ」と図太い商魂を証言するのは地元記者の弁。 元常連客は「生活保護や年金で糊口をしのいでいるお年寄りが夕方になるとフラフラとやってくる。全部ツケで、年金の支払日にまとめて払うシステムになってるんだよ。ホステスのオバちゃんがブラやパンティの中に手を入れさせてくれるのが、じいさんたちに大ウケしてるんだよ」と苦笑いする。 裁判でも、検察側が「ふくよかな女性が好きな人が集まる飲食店」と表現したスナック。恐る恐る潜入してみると、ママはすでに70歳オーバーな感じ。ホステスはわずか2人で、リーダーとして仕切るホステスも60代ぐらいのおばあちゃんだ。「ふくよか」といえば過言でもないが、むしろ萎んだ感じに見える。 「にいちゃん、うちも1杯もらってよいか? 体つきいいなぁ。お腹すいてないか? おいしい煮込みのつまみあるでぇ」。矢継ぎ早に迫るおばあちゃん。あれよあれよといううちに料理や酒が並ぶが、どれもきちんと料金をカウントされている。 言われるがままにしていると散財する一方だ。これでは取材にならないため「そういえば、あの連続不審死事件の女って、ここに勤めていたって噂を聞いたんですが...」と単刀直入に当ててみると、おばあちゃんは「シッ。あそこの客、事件の当事者なんや。でかい声で言わんといて」と口に指を当てた。 「さとみちゃん(美由紀被告の源氏名)はなぁ、店のなかではかわいくて人気あったんよ」。おばあちゃん2人だったらそりゃカワいく見える。 「さとみちゃんのカラオケ、歌ってみるか?」。おばあちゃんはノートを取り出した。意外にも、美由紀被告がホステス現役時代に使ったカラオケ18番のリストだった。 プリンセスプリンセスの「M」、キロロの「未来へ」など80~90年代の切ないラブソングが並ぶ。チャゲ&飛鳥の「SAY YES」もある。毒婦に思いをはせながら、彼女の愛でたヒット曲をおばあちゃんの合いの手のあわせて歌いまくる。勘定はなんと1万円を超えていた。「カラオケは1曲500円なんよ」。おばあちゃんはいたずらっぽく笑う。プチぼったくり感覚...。こうして男たちはドツボに嵌っていったのだろうか-。 (文=KYAN岬) 【悲劇の現象学 バックナンバー】 ・悲劇の現象学 Vol.1「木嶋佳苗とクックパッド」 ・悲劇の現象学 Vol.2「【秋葉原事件】加藤智大と同人アニメ」 ・悲劇の現象学 Vol.3「【尼崎事件】角田美代子と“粉もの”」 ・悲劇の現象学 Vol.4「福知山線脱線事故と沖縄」 ・悲劇の現象学 Vol.5「山形3人殺傷事件とブラックニンジャソード」 ・悲劇の現象学 Vol.6「オウム菊地直子と性愛日記」 ・悲劇の現象学 Vol.7「酒井法子と新興宗教」 ・悲劇の現象学 Vol.8 「坂井和泉と慶応病院」

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