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~【ジャーナリスト渋井哲也のひねくれ社会学】都市伝説よりも手強いのは、事実だと思われているニセモノの通説ではないだろうか? このシリーズでは実体験・取材に基づき、怪しげな情報に関する個人的な見解を述べる~

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第1回 飛び込み自殺は特急列車に限らない

 警察庁などによると、現在、年間自殺者数は3万人前後を推移していたものの、やや減少傾向だ。ただ、一般人がイチバン気になるのが電車の飛び込み自殺だろう。なぜならもし、自分がその電車を利用しているときに発生すると、「え?なんで止まってるんだよ。急いでいるときに....」などと思ったりするからだ。周りの人を巻き込むことも多い飛び込み自殺だが、中でも、「中央線・総武緩行線」は快速が多く、スピードが出るため、自殺が多いとまことしやかにささやかれている。だが、飛び込み自殺はなにも特急列車が通過する駅に限って起こっていることではないのは至極当然のことだ。

 多くの人は“事故を起こした電車”というよりは、事故の時間帯に別の電車に乗っていて、“一時、運転を見合わせた瞬間に遭遇した”経験を持つだろう。私もよく電車遅延に出くわすが、そんな時、過去に実際、事故を起こした電車に乗っていたことを思い出す。


■2008年の冬、それは起きた

 2008年11月16日、私は新宿駅で総武線に乗り換え、荻窪方面に向かっていた。取材のためだったと思う。荻窪駅では先頭のほうが改札に近いため、前から数えた方が早い車両に乗っていた。新宿から出てすぐの大久保駅に到着するころ、何かにぶつかった音がした。乗り合わせていた乗客たちは驚いた様子で顔を合わせる。騒然とする中、車内アナウンスでは人身事故を伝えていた。

 ホームの途中で電車は止まった。まだドアは開いていない。新宿駅側からホームに入ってすぐのあたりで停車していた。ふと、ホームを見ると、上着とバックが放置され、その周辺には何かの資料が散乱していた。このあたりで接触したのだろうか。反対側を見てみると、荷物のようなものが見える。車両の下を駅員たちが確認していた。人の体の一部のようなものも見えた。

 しばらくすると、車両のドアが開き、降りることができた。乗客たちは全員、改札に向かう。私は上着が放置されていた場所に向かった。新宿駅側のホームの端、改札とは逆側だ。電車が動かせないので、人の体の一部のようなものが人間であることは確認できない。もちろん、生死も分からない。散乱している資料の中には、求人情報のようなものがあった。

 30分ほど経った後、男性が車両の下から出され、救急隊が緑色のシートに隠しながら運んでいった。

 大久保駅から約600メートル離れた場所にハローワーク新宿歌舞伎町庁舎がある。ただ、この日は日曜日。この日にハローワークに行ったわけではないだろう。ハローワークで紹介された会社の面接の帰りだったのか、あるいは、面接の合否が分かった後だったのだろうか。事故で亡くなったのは男性だということは、あとから来た救急隊員の会話によって分かった。その日のニュースでも翌日の記事でも、その男性のことが書かれたものはなかった。後から調べて分かったのは、この時亡くなったのは、46歳の男性だったということだ。

 特急や快速が止まらない駅では飛び込み自殺が多発すると言われている。だが、大久保駅は各駅停車しか止まらず、特急や快速が走る線路にはホームがない。この男のように、ニュースにもならず、誰にも知られず(その時に居合わせた者を除き)、死んでゆく人間がいる。

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