>  > 牛小屋に5人暮らし、極貧からの脱出劇  

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澤田真一

 インドネシアは、世界の摩訶不思議が全て集まった国だ。最先端の技術と古来からの発想が複雑に混ざり合い、インドネシア国民は他に例のない驚きの文化を築き上げた。そんな国にも今、高度経済成長の波が押し寄せている。だが国民が受け継いできた摩訶不思議の宝箱は、様々な怪奇現象を生み出し続けている。そう、今でも――。

 インドネシアの首都ジャカルタには、富裕層や外国人旅行客に近寄る物乞いが数多くいる。彼らは一見貧しそうな身なりをしているが、実は決して飢えているわけではなく、むしろ自動車の購入を検討できるくらいの稼ぎを得ているということは以前記事に書いた通りだ。だが、この国にいるのはそういう人たちばかりではない。本当に貧困のどん底に身を置いている市民も存在する。

 ジョグジャカルタ特別州スレマン県に住む、ブリプダ・タウフィックは地元の警察官である。今年で20歳を迎える、精悍な顔つきの青年だ。警察官らしく、体格も立派である。そんな彼が今、インドネシア中の注目を集めている。今も極貧の環境に身を置く、苦労人の警察官として――。

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ブリプダ・タウフィック氏「YouTube」より


■資格牛小屋の中の警察官

 地元メディアの「ムルデカ・ドットコム」が、このタウフィック巡査とその家族が住まう家を写真に収めている。この家というのは僅か28平米の牛小屋。出入り口にはドアすらない。その中で父親と3人の弟を含めた5人で生活している。

 写真を見ると、失礼ながらとても人間が暮らせる環境とは思えない。床は当然タイルやフローリングではなく、土の上にそのままベッドを置いているようだ。何しろ、ここは牛小屋だ。シャワーもトイレもなく、中に入ればいつも埃まみれの不衛生な場所である。

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タウフィック氏の家「YouTube」より

 タウフィック巡査は極貧の環境の中で勉学を重ね、警察官試験を突破し晴れて制服を受け取ったものの、教育期間中は無給である。従って、まだ家族を豊かにできる段階ではない。彼自身がどこかで食事をするための小遣いはもちろん、弟たちの学費すらも滞る状態だ。だが、それでも彼は警察官である。彼自身の衣食住は警察署内で保障されている。さらにジョグジャカルタ市警のユルザ・スライマン署長は、

「彼の実家については、雨季の際の水害に遭わないよう我々が責任を持って警戒に当たる」

 と、明言した。


■県政府を動かしたサクセスストーリー

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画像は、タウフィック氏の弟「YouTube」より

 そして最近、タウフィック巡査に大きな朗報が届いた。

 スレマン県のユニ・サティア・ラハユ副知事が彼について、ある1つの見解を提示した。「巡査の弟たちの教育は、県政府が保証する」と。インドネシア都市部では労働者よりも稼ぐ物乞いが社会問題と化している中、本当の貧困から脱出しようとする青年のサクセスストーリーは全国市民の胸を打った。SNSではタウフィック巡査への激励のメッセージが万単位で寄せられ、それがついに地方政府を動かすまでになったのだ。

 外国からの投資により、年々豊かになっているインドネシア。ジャカルタやスラバヤでは、巨大な高級ショッピングモールが相次いで建てられ新車が売れまくっている。だが地方部へ目を向ければ、タウフィック巡査のような境遇の市民がまだまだ多く存在するのだ。日本でもトマ・ピケティの『21世紀の資本』が話題となり、格差構造について熱い議論が繰り広げられている。このインドネシアの一件でもわかるとおり、一家がなぜ極貧に陥ったのかは別として、「学費も払ってもらえぬ弟たち」には、本人の意思とは別に、しかるべき学習環境も与えられないという「機会の不平等」が生じていた。タウフィック巡査は極貧の中でも勉強を重ね、警察官試験を突破したことで新しい道を開くことができたが、こうした貧困家庭に生まれた子どもたちにも平等に学習・進学の機会が与えられるような社会になることを願うばかりだ。
(文=澤田真一)

■澤田真一
フリーライター。経済情報サイト等で執筆多数。日本とインドネシアを往復する生活を送りながら、記事作成や実地調査などの仕事を請け負う。只今、インドネシア関連の執筆及び調査の依頼を受付中。https://www.facebook.com/masakazu.sawada

 澤田真一の「ジャカルタニュース」過去記事は、コチラ

動画は「YouTube」より

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