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異型のモンスターが暴れまくる！伊丹✕黒沢の名作『スウィートホーム』はなぜ封印された？

2015.07.10 15:00 文＝天野ミチヒロ

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・あらすじ

　画家・間宮一郎が生前に住んでいた古びた洋館に、テレビ取材班がやってくる。石で積まれた供養塔を蹴り崩すバチ当たりのカメラマン田口は、これが映画デビューの古館伊知郎。だが次々と起こる超常現象により、田口とレポーターのアスカ（黒田福美）が変死する。そこへ山村（伊丹十三）と名乗る老人が現れ、間宮家にまつわる惨劇を明かす。かつて間宮画伯の妻が誤って我が子を焼却炉で死なせ、助けようとした彼女も右目を失う。ショックで狂った間宮夫人は、子供達を次々と浚って殺害した末に自殺。その霊を鎮める供養塔を壊したため、間宮夫人が悪霊となって甦ったのだ。

　伊丹の超リアルな老けメイクを担当したのは、ハリウッドから招聘したディック・スミス。『ゴッドファーザー』のマーロン・ブランド、『タクシードライバー』のロバート・デ・ニーロ、『エクソシスト』のリンダ・ブレアと、錚々たる俳優らに特殊メイクを施し、『アマデウス』では第57回アカデミーメイクアップ賞を受賞し「SFXの神様」と呼ばれた。フォームラテックスという液状ゴムを加工した素材を複数のパーツにし、それを重ねていくオーバーラップ・アプライアンス法は彼が発案した手法で、これを作品に取り入れたのだ。

　さて、やがて間宮夫人の怨霊は、生き残った和夫と娘のエミにも魔手を伸ばす。このエミ役は、当時人気絶頂だったレベッカのボーカル・NOKKO。古館と同じく映画初出演だ。本物の炎が噴き上がる巨大なガスレンジみたいな装置の中で演技をするNOKKO。「ヤダよ～、怖～い……マジィ～？」と半泣きしているメイキング映像を見ると、今ならトップアイドルにこんな惨い撮影は絶対無理……と隔世の感あり。

　クライマックスは、夫人の怨霊が異形のモンスターと化して暴れるシーンだ。モンスターの内部メカ担当、スティーブ・ダナンは吼える。「日本人はモンスターが作り物くさくても文句は言わない。でもアメリカは違う。モンスターは本物として感じられねばならない。誰かが中に入っていると思われるなどは論外だ」。何か我らがゴジラの悪口を言われているようで面白くないが、ここは伊丹の要請だから我慢しよう（苦笑）。

　作品は後に東宝からレンタル用ビデオ、レーザーディスクが発売されたが、このソフト化の際、二次使用（ビデオ化・テレビ放送）に対する監督・脚本家の報酬（収益の1.75％）を伊丹が黒沢に支払わなかった。そのため黒沢が伊丹と東宝を相手取って訴訟を起こしたのだ。だが意外にも裁判は伊丹に有利に進み、黒沢は敗訴。裁判沙汰の影響もあってか、未だDVD化されない状況が続いている。皮肉にも黒沢は、伊丹逝去の直後にサイコスリラーの傑作『CURE』でブレイクし、現在もキャリアアップを続けている。

　作品はけっして成功した作品とはいえないが（というか、収益は赤字）、ビデオで改めて見返すと、やがて到来するデジタル時代に橋渡しをするような、アナログ特撮の集大成として再評価できる。諸問題をクリアして、封印解除を望む。
（文＝天野ミチヒロ）

■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA（未確認生物）研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』（文春文庫）、『未確認生物学！』（メディアファクトリー）、『本当にいる世界の未知生物（UMA）案内』（笠倉出版）など。新刊に、『蘇る封印映像』（宝島社）がある。

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天野ミチヒロ

1960年東京出身。UMA（未確認生物）研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイトネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』（文春文庫）、『未確認生物学！』（メディアファクトリー）、『本当にいる世界の未知生物（UMA）案内』（笠倉出版）など。新刊に、『蘇る封印映像』（宝島社）がある。
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