学術的にみた本気の「宇宙人論」 ― 人類が“宇宙人”と遭遇する日はいつ?

 大きな頭に目と耳のついた人間に近い「ヒューマノイド型」とともに、知的能力を持った極小生物や、暗黒星雲など過去のSF作品に登場する「非ヒューマノイド型」の存在についても言及されている。人間は地球上においても“あまり似ていない相手に対しては、嫌悪感や不気味さを感じることが多いのは確かである”“SFに登場する宇宙人には、地球上の生物をモデルにして想像されたものが多いが、凶悪は宇宙人はしばしば昆虫型なのである”(p.101)と鋭いツッコミもある。

 宇宙人は、地球(のすぐそば)までやってくるほど高度な知的生命体なのだから、地球事情に精通し、人間に理解のある存在というイメージを抱きがちだが、これは“人間の勝手”というべきものかもしれない。未知の存在とのコミュニケーションに関する根本的な論点整理も、宇宙人類学の課題であろう。

 第5章「未来の二つの顔:宇宙が開く生物=社会・文化多様性への扉」では大村によって、北極圏に住むイヌイトの生活と文化に注目し、宇宙空間における人間の営みについて試論が展開される。イヌイトは、極限の環境に暮らし、アザラシ猟などで生計を立てていた。しかし、現在はインターネットも、ファーストフードもある現代的な生活をし、一方で、これまでの伝統的な生活様式も維持する。この多様性は、人類の宇宙移住にも援用できるものであろうとの指摘されている。

 終章「果てしなき果てをめざして」では内堀基光(社会文化人類学)によってSF作家として知られた小松左京のフレーズを用いて宇宙人類学の展望が記されている。まず文化人類学の現状として、“世界の涯(=果て)のような地政学的辺境での生を見つめることが人類の全体を考えることに決定的な意味を持つといった、かつての社会文化人類学が追い求めていた夢からは、今やほとんどの研究者がそれぞれの主題に関して醒めた気になっている”(p.188)という状況が記され、“人間存在のあり方の果て、生存の極限を射程に収めようとするところに、人類学の最も人類学的な志があったのではなかったか”(p.189)と原点に立ち返る問いかけがなされる。この言葉は、序章で大村が指摘したように、宇宙人類学は、人類学の重要な一翼を担うであろう、という言葉へつながる。

 再び木村のあとがきに戻れば“学問の任務は、何かを解決することではなく、新たな問いをたて、その問いを掘り下げることで、新たな可能性の地平を拓くことだからである”(p.205)という学術のイロハも、宇宙人類学を支えるものだろう。

 本書は、宇宙空間の政治利用や軍事利用(宇宙開発の寡占化はその前哨戦であろう)、あるいはSFに描かれる宇宙戦争といった人類の“負の側面”への課題については積極的に議論されていない印象を持った。

 それでも、かつての存在した“輝かしい未来”“美しい未来”がフロンティアとしての宇宙に存在することは確かなのだと、あらためて気付かされる。題目から想像される“大風呂敷”な本ではない。
(文=王城つぐ/メディア文化史研究)

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