日本に戻らなかった残留日本兵1万人の実態! 中国、ソ連、タイに残った理由とは?

日本に戻らなかった残留日本兵1万人の実態! 中国、ソ連、タイに残った理由とは?の画像1※イメージ画像:『残留日本兵 アジアに生きた一万人の戦後』(中央公論新社)

 天皇皇后両陛下が1月下旬、フィリピンを訪れ、残留日本人の二世と会見した。彼らは戦前からフィリピンへ渡った日本人移民や、戦時中にフィリピンに駐留した日本兵と現地の女性の間にできた子どもたちだ。今回の訪問は、日本とフィリピンの国交正常化60周年を記念してのものである。それとともに、戦後70年を超え「あの戦争」を捉え直す契機ともなろう。

 フィリピンに限らず、1945年の終戦後、さまざまな理由で日本へ戻らず現地にとどまった日本人は多い。その数は日本兵だけでも1万人におよぶといわれる。

 林英一『残留日本兵:アジアに生きた一万人の戦後』(中公新書)は、残留日本兵の実態を解きあかした秀作である。著者は1984年生まれの若い研究者だ。本書の執筆時は20代。本書のほかインドネシアの残留日本兵に関する著作も多数上梓している。

 本書の冒頭には、3名の実在する元日本兵が登場する。「生きていた日本兵」といえば、横井庄一さんと小野田寛郎さんであろう。横井さんはサイパン島で28年間、小野田さんはフィリピンのルバング島で30年間を過ごした。だが、同時期にもうひとりの“日本兵”が発見されたことはあまり知られていない。インドネシアのモロタイ島で発見された中村輝夫さんだ。彼は台湾の原住民である高砂族の出身であった。中村は日本への帰国を望むも、台湾へと送られる。著者はこれらの事例について“戦争の記憶は商品化され、ノスタルジックに消費されてきた”と批判的にとらえる。

 有名なエピソードの裏に、無数の残留日本兵たちの姿がある。その実態を、史料を駆使して調査したものが本書である。戦争に関する記録は、新聞雑誌テレビの報道ばかりでなく、学術的な研究から自費出版の回想録まで、無数に存在する。それらの史料を収集し、読み込み、実態の整理を試みる。“残留日本兵の多くは、激戦が繰り広げられた地域というよりは、大して戦闘が行われなかった地域で発生している。ましてや、個々人が残留に至った動機は、より私的で多様であり、なおかつ複合的である”と著者は指摘する(p.32)。

 本書では1万人のうち100人の事例を整理し、残留理由を整理している。その1万人の内訳はおよそ以下の通りである。

 ソ連・モンゴル。最大800人あまり、1939年のノモンハン事件の残留捕虜

■中国、5600人(共産党側3000人、国民党側2600人)
■インドシナ(ベトナム、ラオス、カンボジア)、700~800人
■タイ、約1000人
■マラヤ(マレーシア、シンガポール)、200~400人
■オランダ領東インド(インドネシア)、903人
(p.34-35)

 戦後、アジアの各地で起こった独立戦争に残留日本兵が参加し、技術的、人的な援助を行った話はよく知られている。インドネシア独立戦争のほか、ベトナム独立が目指された第一次インドシナ戦争などが代表的だろう。「アジア解放」の大義に日本人が身を投じた美談として扱われがちな話である。だが、実態は一枚岩ではない。

 例えば、広東語、インドネシア語に通じていたため、日本軍部隊の残務処理を担わされ、復員を前にしてインドネシア側に拉致・監禁され残留を強制(インドネシア)(p.48)といった例もある。おおざっぱな視点から見過ごされる話を著者は丁寧にひろい上げる。

 残留の動機は多種多様だ。個人的な残留動機としては、八人兄弟の三男坊であり、日本へ帰ってもやりたいこともできないだろうし、好きなことをしたいと残留を決意(インドネシア)(p.39)、現地の女性と結婚し子どももいたため残留(タイ)(p.58-59)などがあげられる。さらに、野心あふれる理由もある。戦闘を経験しておらず、敗戦の事実を受け入れたがいため仲間とともに残留(ベトナム)(p.62)、捕虜生活に耐えかねて、仲間4人とトラックを盗んで逃亡、残留(ラオス)(p.70)、上官を殴ってしまったために、営倉(懲罰房)入りになるのをおそれ逃亡、残留(インドネシア)(p.71)。捕虜収容所からの逃亡は複数の国で確認されている。

 軍隊組織というときっちりと統制がとれていたようにも見えるが、必ずしもまとまりがあったわけではない。「海外で一旗揚げたい」「集団生活が息苦しい」という人間はどの時代にも存在するのだ。現地に戦前から住んでおり、日本へ戻るも、現地語ができるということで徴兵され、現地へ派遣される。土地勘のある場所のため戦後も残留し残留(インドネシア)(タイ)(p.60)、といった例もある。

 やむにやまれず残留を余儀なくされる例もある。内地は壊滅状態にある、日本へ帰国する船は沈められるといったデマを信じて、残留(ベトナム)(インドネシア)(p.63-66)。現地で憲兵(軍事警察)をしており、日本へ戻れば戦犯の裁判にかけられ、死刑判決を受けるのではと危機感を感じ、残留を決意(インドネシア)(p.53)といったものだ。

 さらに、高い技術力を持っていた日本人が能力を買われて残留する例もある。航空技術の伝達を日本人同僚から求められ残留(中国)(p.90)、満鉄勤務者が鉄道技術の伝達を中国人同僚から求められ残留(中国)(p.91)、銀行員がベトナムのハノイ支店に派遣。戦後、ベトミン(戦後ベトナム独立を目指したゲリラ組織)から財務省の国家銀行設立準備への協力を要請され残留(ベトナム)(p.92)。戦後に奇跡的な経済成長を遂げる日本の萌芽を感じ取れるエピソードでもある。もちろん自発的ではなく、半強制的に現地にとどめおかれた例もある。

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