中国で世界最大(サッカー場30個分)の電波望遠鏡が完成! 素直にリスペクトできない理由とは?

 FAST が建設された貴州省の山間部には、実は少数民族であるプイ族・ミャオ族が暮らしていた。なんとしてもFASTを建設し、ノイズの少ない環境で成果をあげたい中国政府は、建設予定地から半径5km以内に暮らす9,110人の地域住民に立ち退きを命じ、一人当り1万2,000元(約21万円)が補償として政府から支払われたことが国営新華社通信によって伝えられた。宇宙開発のため、少数民族を退去させる中国政府の強引な手法には、各国から批判が集まったが、中国はそうまでしても宇宙分野で成果をあげたいのだ。


■急成長を遂げる中国の宇宙開発

 8月28日付けの英紙「The Guardian」によると、中国は宇宙計画に年間60億ドル費やしていると見積もられている。これはロシアを追い抜き、アメリカに次ぐ世界第2位の額である。国を挙げて宇宙開発に邁進する中国は、2020年までに自前の恒久宇宙ステーションを建設し、そこから月へと人を送り込むことも計画している。その試験機である「天宮1号」は制御不能に陥り、来年後半地球に落下すると目されて話題を呼んでいるが、先月15日には続く「天宮2号」が打ち上げに成功。中国の宇宙ステーション計画は着々と進行しているのだ。

 では、なぜ中国は近年これほど宇宙開発や宇宙科学に力を入れているのか。宇宙アナリストで『China in Space』の著者ブライアン・ハーヴェイ氏は、中国の宇宙開発が有人宇宙飛行という初期段階から惑星探査というレベルにまで急速に進歩しつつあることを評価しながら、その目的を憶測する。米露を中心とした宇宙開発競争に乗り遅れた中国は「平等を求めている。彼らは世界の宇宙コミュニティーからのリスペクトを求めているのだ」。

 中国は軍事衛星も開発中であり、中国を警戒するアメリカは、中国と宇宙開発分野で協力しない姿勢を貫いている。中国の台頭により今、宇宙開発分野での勢力図は大きく変わりつつある。今後も飛躍するであろう技術を軍事的に利用し、国力を誇示するのではなく、人類の知的財産を創造することでブライアン氏の言うようにリスペクトを手にしてほしいものだ。FASTが未知の電波をキャッチし、新たな知の扉を開くことに期待したい。
(文=坂井学)

参考:「Daily Mail」、「The Guardian」、石黒正人著『ALMA電波望遠鏡』(ちくまプリマー新書)、ほか

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