謎多き画家フェルメールの絵が質素で静かな理由とは? 実は描かれていた「その先の世界」
■フェルメールに感じる「その先の世界」
そんなオランダ絵画の中で、やはりフェルメールは芸術的にも秀逸だ。何といっても、フェルメールの絵は静謐そのものなのだ。ドラマチックな絵を要求するカトリック教会のニーズに翻弄されなかったこともあるだろうが、商売に貪欲だった当時のオランダ人は、きっと家でホッとしたかったのだろう。フェルメールに限らず、オランダ絵画には静かな風景画や静物画、そして市井の人たちを穏やかに描いたものが実に多い。
一見、何の変哲もない室内の風景なのに、これらの作品からは室内の涼しげな空気がこぼれてくるようだ。そして、小さい画面に「この絵の世界に入ると、いったいどんな世界があるのだろう」と想像をかき立てられるような世界観が溢れている。
あのシュールレアリスム(超現実主義)の巨匠、サルバドール・ダリが史上最高の画家としてフェルメールを信奉していたというのも、そんなイメージの世界があったからに違いない。いわゆる「その先の世界」とでも言うべきだろうか。
■フェルメール絵画の謎/カメラ・オブスキュラ
さらにフェルメールの絵には、実はこの当時発明された最新のハイテク技術が用いられている。それは、現代のカメラの原型ともいえるカメラ・オブスキュラ――ラテン語で「黒い箱」を意味する外界の景色を映し出す装置だ。
カメラ・オブスキュラは、ピンホールに凹レンズを取り付けたもの。フィルムはもちろん乾板もなかった時代だが、画家たちは作品の下絵にこぞってこの装置を用いていたという。
部屋のまた奥に、次々と別の部屋が連なる空間を表現できたのも、カメラ・オブスキュラの力が大きかったはずだ。
画家はこういう装置を使っていることを、あまり大っぴらに言いたがらないが(笑)、形を迅速に取ることにかけては、大変効率的な手法といえる。
現代でもスーパーリアリズムの画家は、スライドやパソコンを使ってトレースするし、漫画家の間ではごく一般的に用いられる手法である。フェルメールが描く、絵の明るいハイライト部分に置かれた光の粒も、カメラ・オブスキュラを通じて見えるものと考えられている。
アートであっても、その時代背景と密接に連動しているということがおわかりいただけるだろう。
小暮満寿雄(こぐれ・ますお)
1986年多摩美術大学院修了。教員生活を経たのち、1988年よりインド、トルコ、ヨーロッパ方面を周遊。現在は著作や絵画の制作を中心に活動を行い、年に1回ほどのペースで個展を開催している。著書に『堪能ルーヴル―半日で観るヨーロッパ絵画のエッセンス』(まどか出版)、『みなしご王子 インドのアチャールくん』(情報センター出版局)がある。
・ HP「小暮満寿雄 Art Gallery」
・ 公式ブログ
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