>  >  > 16年かけて「風の谷のナウシカ」メーヴェを開発

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八谷和彦

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写真:メーヴェ(M-02J)で飛ぶ八谷氏

 今から33年前、宮﨑駿監督がリリースしたアニメ「風の谷のナウシカ」。その中に出てくる夢の小型飛行機メーヴェを16年かけて自ら開発した鳥人または超人がいる。その名も、八谷和彦(50)さんだ。

 八谷氏はメディアアーティストとして活躍しており、東京芸術大学美術学部先端芸術表現科・准教授でもある。その八谷氏に今回トカナはロング・インタビューを敢行。メーヴェ開発に至る思い、超現実のVR開発や急速なAIの進化における第4次産業革命シンギュラリティに至る未来、小型ロケットビジネスから、ユニークな作品を生み出す成功哲学までメディアアーティストとしての視点から迫る。

 第1回目は、メーヴェ開発に至る経緯と思いについて伺った。

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東京芸大上野校地のカフェテリアにて 筆者撮影

――今回はインタビューを受けていただき光栄です。早速ですがこれまで発表された「メーヴェ」やお互いの見ているものを交換する装置「視聴覚交換マシン」、反重力で浮く「エアボード」などの開発アイデアはどこからわいてくるのでしょうか?

八谷 30代の頃から書きためたネタ帳があるのですが、そこに書いたものを次々に作っていましたね。たとえば、「バックトゥザフューチャー2」に登場した反重力で浮くエアボード。これは、1997~2001年くらいに、実際にジェットエンジンを使って作っていました。とはいえ、エンジニアリング的にはギャグというか、“実現はできるけど実用とはちょっと違う”あくまでもアート作品です。ジェットエンジンを使って地面から“1cm位浮く”というものを作るという、ある種バカバカしさを真面目に扱う楽しさのようなものを求めていたんですね。

 これでジェットエンジンに扱い慣れたんで、次は“100m浮いてる”ものを作ろうと思って、それがメーヴェなんです。もともとジェットエンジンは航空機のエンジンとして生まれたというのもありますし、次は飛行機だなと思っていました。

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写真:八谷氏の開発したエアボード

――それは随分と思い切りましたね。

八谷 そうですね。これは僕の人生観でもあるのですが、ひとつのジャンルにこだわるのではなく、色んなジャンルで一個ずつ、突発的にすごいものを作るみたいなところに、ちょっと憧れがあるんです。素人でビギナーのくせにすごいものを作る、みたいな。
 
 飛行機も人生において1機か2機しか作らないなら、一番難しそうで一番みんなが欲しそうな「風の谷のナウシカ」のメーヴェが喜ばれるのではないかな、と思って、マジで作ってみようと決心したんです。それが大体2000年くらいで、実際に着手したのは2003年からです。昨年、高いところからのフライトを初めてやったのですが、実質13年位かかってようやくここまできた感じではあるんですけど。

――構想からは16年間も取り組まれたということですね。

八谷 すごく大変ですけど、その分やりがいがあることだと思ってメーヴェを作り始めましたね。当時37歳ですけど、そろそろ始めないともう間に合わないという思いもありました。

――年齢的にもう年だなと?

八谷 自分が乗ることも当然考えていたので。体力もありますが、今は、老眼とかもきてたりするんで、ある程度早めにやっといて良かったというのはありますね。それでもあと5年早ければ、今よりももっとよく見えたのに……と思うこともありますけど。老眼に関してですが(笑)

●メーヴェの飛んでいるテスト飛行のビデオ

動画は、https://www.youtube.com/watch?v=gSwSCRQiwTMより

――普段からアイデア手帳を持ち歩いているんですか?

八谷 30代の頃は持ってましたけど、最近はやってないですね。作るものが高度になって時間がかかるようになってきたので、数が作れないからネタ帳も要らないんです。今、心のネタ帳にあるのは、でかい作品一個くらいかなって感じですね。

――展示会用の作品はアップグレードなどして再利用するんでしょうか?

八谷 ええ。例えば、視聴覚交換マシンという実質のデビュー作も、最初はほんとにアナログの電波を出す機械を使っていたんですけども、今はiPod touchでやっていたり。デジタル版を作って運用を楽にするとか小さくコンパクトにするとか、あるいは装着感を良くするとかしていますね。基本的には自分の作品を大事にする方なので、一度公開した作品とかもバージョンアップして再度公開したりしてます。だから他の普通のアーティストと比べると作品の数は少ないと思うんですけど、1人のアーティストの代表作なんて、みんなどうせ1~2点しか覚えきれないと思うので、それでいいと思っているんです。

 たくさん作って作りっぱなしじゃなくて自分のは体験型の作品が多いので、技術的な進歩があったらそれに合わせてバージョンアップしていかないと体験がどんどん古くなっちゃうんですよ。

――八谷さんの開発した、ピンクのクマがメールを運んでくれる楽しさで人気となった電子メールソフト「ポストペット」も同じ経緯を辿っていますね。 ※インターネットが一部のマニアのものだった当時、ペットを使ったコミュニケーションという新しい楽しみ方を提供し、 それが幅広い層に受け入れられ爆発的なヒットを記録。以来バージョンアップを繰り返し、累計出荷数は1,500万枚

八谷 実はポストペットの「VRバージョン」を作っていまして、クラウドファンディングで予算を賄うみたいなことをやっているんです。これが今月30日までなんです(笑)今月30日までなので興味のある方はぜひ応援を!(→https://camp-fire.jp/projects/view/14723

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八谷さんが今取り組んでいる「ポストペットVR」のサイトより。

――ヒット作があっても、新作を作り続ける八谷さんの研究モチベーションは?

八谷 自分の作品がヒットしたお金で億ションや高級車買うというよりは、今の世の中に無いものを作るほうが、何十倍も楽しめるじゃないですか。自分が掴んだポジションや人脈を利用して、自分でもワクワクするようなことがしたいというか。もちろん、使命感とかもなくはないんですけども、エンジニアリング魂というのともちょっと違って、アート寄りなのでしょう。

 普通の企業の開発の場合、やっぱりものを作って、開発費を回収して、次の開発費に投資していく……という発想だと思うのですが、そうじゃないのもアリなんじゃないかと。今回のぼくの機体も事故リスクが高い機体なので、慣れてない人が乗るとすぐ死にかねない。だから、普通の人には売れない。ただし、こういう飛行機も1機だけだったら作れるし、乗ることに関しては自分がまずリスク負えばいいし、ちゃんと訓練すれば乗れる人もいるんじゃないかっていう、なんとなくの目処があったから開発を始めたんです。ただ、こうした夢のあるプロジェクトは、一般の会社がやる “マーケティングリサーチしてある程度売れるというのがわかりましたので作りました”というループの中では生まれないですね。

 宇宙開発や航空機の開発も、兵器として転用された時代だったから、予算が青天井なんですよね。売るという目的はないけど、兵器だから無茶苦茶予算をかけられる。たとえば、冷戦時代のアポロ計画なんて、本当に青天井だったわけですが、それは、宇宙開発でソ連に先を越されたアメリカが “やばい、負ける”と対抗意識を燃やした結果なんです。今は、宇宙や航空の開発というものがもうちょっと普通の人のとこまでおりてきているような気がしますが、売る・売らない以外の考えで始まる開発もあっていいと思うんです。巨大なロボットを一人で作った倉田光吾郎さんとか、2足歩行ロボットを韓国のメーカーの会長さんが自らのお金つぎ込んで作ったりとかですね。

――個人で投資する方が増えてきたんですね。

八谷 これまでは、戦争に勝つためや国威発揚につながるものでないと夢のあるものが作りづらかったんですけども、今はもう少しカジュアルになっていて、“ちょっと気の狂った人とか頭のおかしい人だったら作れる(笑)”という風潮が出てきていますね。


 次回は、急成長する中国のものつくり市場と日本の高度経済成長からインターネットの黎明期に八谷氏がいかにしてビジネスチャンスをものにしたかを伺います! 乞うご期待!
(取材・文=中田雄一郎)

●八谷和彦
1966年4月18日(発明の日)生まれの発明系アーティスト。
九州芸術工科大学(現九州大学芸術工学部)卒業。コンサルティング会社勤務後(株)PetWORKs を設立。現在にいたる。
作品に《視聴覚交換マシン》や《ポストペット》などのコミュニケーション・ツールや、ジェットエンジン付きスケートボード《エアボード》やパーソナルフライトシステム《オープンスカイ》などがあり、作品は機能をもった装置であることが多い。また、311震災以後は「ガイガーカウンターミーティング」などサイエンス・コミュニケーション系の活動もちらほら。
2010年10月より東京藝術大学 先端芸術表現科 准教授。
・現在、ポストペットの新タイトル、PostPetVRのクラウドファンディングを展開中。
https://camp-fire.jp/projects/view/14723

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