>  > 年間300体「死体解剖医」に聞いた“死体格差”

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • コメント0
関連キーワード:

死体

,

白神じゅりこ

,

西尾元

,

解剖医

71iqFoosT3L.jpg
画像は、『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』(双葉社)

 今、これを読んでいる読者が幸福であっても、どこかでひとつ歯車が狂えば、誰もが「悲しい死体」となる可能性はある。

 兵庫医科大学・法医学講座主任である西尾元教授は、解剖医として20年にわたり、粛々と解剖台の上の遺体と向き合ってきた。西尾教授の新著『死体格差 解剖台の上の「声なき声」より』(双葉社)は、実体験に基づいた解剖現場の生々しい死の真実と、格差社会が招く“死体格差”についての詳細が描かれている。借金苦で自身の心臓を刺して自殺した遺体、リストラ後に家賃滞納のアパートで凍死した遺体、認知症の妻を介護入浴中に溺死した夫の遺体……など、さまざまな不幸な背景によって生まれた死体たち。本書は、そのような数多くの“孤独な死体”に優しく向き合って来た西尾教授だからこそ描き出せた魂の一冊である。

 今回は、「死体格差」を招く現代日本社会の死の闇について、西尾教授に聞いた。


■増え続ける孤独死

――本書には、老い、孤独、貧困、病……などの不幸な背景によって生まれた死が描かれています。けれど、これは決して他人事ではなく、誰にでもありうることだと寒気がしました。いわゆる「悲しい死」を迎える主な原因は、やはり貧困なのでしょうか?

西尾先生(以下、西尾)「一般的には、そういうことが言えると思います。ただ、正直言うと普段仕事をする際には貧困がどうとか、そういったことはあまり意識していませんでした。しかし、改めて振り返った時に、『貧困層の方の遺体をたくさん扱っている……』と感じたのです。

特にここ数年は、生前「生活保護下」にあった方の遺体が解剖に回ってくることが増えました。会社をリストラされるなど、小さなつまずきから貧困に転落したのだろうと思われる遺体も数多く運ばれてきました。所持金はほとんどなく、胃や腸の中はからっぽ。おそらく長く風呂にも入れなかったのでしょう。爪や髪の毛が伸び放題で、全身の皮膚表面が垢で茶色っぽくて不衛生な状態なんです。けれど、そういった貧困の遺体が解剖に回ってきても『また来たか』という感じで、珍しくもなく、私にはありふれたことだったのですが、改めて考えると、悲しい死と貧困は繋がっているな、と。

 また、貧困層だけではなく、経済的には恵まれていても、一人暮らしの人もいまして。脳内に小さな出血が起こって、動けなくなり、電話をして誰かに助けを求めることもできないまま、孤独に凍死した人もいるんです。だから、経済的に恵まれている人だって『悲しい死』になりうるわけです。でも確率的には、貧困などの、社会的弱者といわれる人が解剖に回されやすいと言えると思います」

DSC_4856-1.jpg
西尾先生


――先生が解剖されるのは、事件性がある遺体や死因不明の遺体ということですね?

西尾「私たちの法医学教室の場合、4分の1が『司法解剖』といって犯罪性が疑われている遺体。残りの4分の3が『行政解剖』といって犯罪性はないんだけれど、死因が分からない遺体。つまり、『行政解剖』です」


■悲しい死が日本のスタンダードになる

――先生が今回、新著を出されたきっかけには、独りぼっちで何日も発見されず孤独死をする……などさまざまな不幸な理由で「悲しい死」を遂げる人たちを哀れむ気持ちがあったのでしょうか?

西尾「正直言って、そういった意識はあまりないんです。ただ、『悲しい死』は、防げたことかもしれない。本人は、そういうふうに死にたくなかったかもしれない。それなら、『なんとか助けられなかったのか』とは思います。しかし、これから一人暮らしはどんどん増えていくし、必然的に孤独死も増えていく。いわゆる『悲しい死』は、日本でのありふれた死の形になっていくんじゃないかなと思います」


――本書の中にも年間の解剖数は、10年前と比べて約2倍、実に半数近くが独居者とありましたね。

西尾「高齢者の一人暮らしの増加、生涯未婚率の上昇、あるいは配偶者と離婚や死別しての独居など……今はさまざまな理由で独居率は増えていると思います。だから実際に私が解剖している症例でも、昔と比べたら今の方が、孤独死が多くなるんです」


関連キーワード

コメントする

お名前
コメント
画像認証
※名前は空欄でもコメントできます。
※誹謗中傷、プライバシー侵害などの違法性の高いコメントは予告なしに削除・非表示にする場合がございます。