「ここ数年のアジア映画でNo.1」! 麻薬、性奴隷、ゲイ、「イスラム国」…フィリピンの貧困を描いた衝撃作/石井光太インタビュー

「ここ数年のアジア映画でNo.1」! 麻薬、性奴隷、ゲイ、「イスラム国」…フィリピンの貧困を描いた衝撃作/石井光太インタビューの画像5© Sari-Sari Store 2016

――両親を助けるために子どもたちが頑張ってお金を集めてくる姿は“家族の絆の強さ”を感じましたが?

石井 たしかに「スラム社会」の家族の絆は強い。しかし、家族という最後の砦を守るため、子どもたちはプライドを捨ててお金を集めなければならなくなった。子どもたちの心の傷は相当なものですし、両親に対して恨みも抱くかもしれませんよね。しかも、これからこの家族たちは、お金を借りた人への返済という重石がのしかかります。彼らがまともな将来を歩むとは考えられないですよね。

 両親はより危険な仕事をしなければならなくなるでしょうし、息子は男に体を売り続けるようになるでしょう。娘も学校を辞めてナースになる夢も諦めて売春しなければならなくなるかもしれない。一番上の兄なんかは、ギャングになってしまうかもしれません。もしこれが中東なら「イスラム国」の戦士という選択肢も出てきてしまう。これがスラムの泥沼。いわゆる負の連鎖なのです。


――スラムを描いた映画でしたが、主人公の女性はだいぶ太っていましたね。これもリアルな実態なのでしょうか?

石井 スラムの人ってみんな太っているんですよ。僕も取材しましたが、彼らはお肉ばっかり食べているんです。魚や野菜はローカロリーだからエネルギーにならないでしょ?しかも新鮮じゃないと食べられないから値段も高い。だから彼らは脂がぎっとりのった安くて質の悪い肉を毎晩食べて、足りないビタミンはサプリで補うんです。その方が安く済みますからね。ほかの先進国もそうですが、お金持ちほど痩せてますよ。

 

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――なるほど、そう言われてみるとそうですね。さて、映画の中で描かれた警察は令状もなく乱暴にローサらを連行し、取り調べもほとんどないまま見逃し料を要求しましたが、警察の横暴さに関してもリアルに描かれていましたか?

石井 スラムには不法滞在者が溢れかえっているし、言葉や常識が通じない外国人を取り締まらなければならないことが多い。自分がやらなければ相手に殺されてしまう可能性もあるわけですから、そりゃ乱暴にもなりますよね。言語だけで統治できるなんてあり得ないんですよ。しかも、警察自体も貧困で、給料だけでは生きていけないケースも多い。だから見逃し料を要求するんです。


――身近な者を密告するのも、スラムではよくあることなのでしょうか?

石井 スラム社会では横のコミュニティが強いんです。彼らは貧しいから銀行からお金を借りることができない。ならば人から借りるしかない。必然的に地域全体の横のつながりが強くなるんです。これは一見助け合ってるように聞こえますが、何かあったら身内を売らなければならないということです。身内を売れば、周りから白い目で見られますし、今までのような暮らしはできなくなりますよね。


――こうした貧困スラムというのは世界からなくならないものなのでしょうか?

石井 基本的に、スラムというのは拡張していくものなので、どんどん大きくなっていくでしょうね。映画の場合も、両親だけの問題だったのが、子どもに飛び火して2倍3倍と膨れ上がってました。恐らく、映画の中の彼らは借金を返すためにもっと危険な仕事を海外でするようになるでしょうから、今度は「グローバル化された落差の穴」に落ちていくと思います。

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 たとえば女性だったら、中東イスラムのお金持ちのメイドになる可能性もあります。当然イスラム国家で働くフィリピン人のメイドの中には性的な虐待を受けたり、自ら売春の道に進むことになったりする人もいますから、大変な日々が待ち受けているでしょう。中には雇い主に性的虐待を受けたのに、逆に「誘惑して浮気に導いた」とされて斬首されることだってあるのです。

 あとは、中東のレストランで清掃員とかして、それだけでは生活が成り立たなくなって、そのうち「イスラム国」に流れていったりとか。あとは、「売春」や「運び屋」ですね。「運び屋」なんかは、その資金がテロリストや反政府軍に流れるとあって、海外では見つかれば死刑ですから、かなり危険な職業です。こうして、貧困の負の連鎖は次々と繋がってゆくし、拡大もするんですよ。

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