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画像は、Thinkstockより


 その後も《ハルくん》は石田さんの周りに現れた。

「父は見たことがないそうです。でも、《ハルくん》の存在は感じていて、私が《ハルくん》と遊んだと言っても、そうなんだろうなと受けとめていたって。実際、両親から《ハルくん》の存在を否定されたことがありません。母に、お祓いしようとは思わなかったの? って尋ねたら、そんなことしたら、私と《ハルくん》が可哀そうだと思ったと言ってました。両親とも、《ハルくん》は優しい子で、何も悪さをしないようだし、きっといつか満足したら成仏するのだから、それまで好きにさせておいてあげましょうと言って、水子供養もしなかったそうです」
 
 石田さんが《ハルくん》のことを人に話さなくなったのは小3の夏だった。同級生と市民プールに行ったら、《ハルくん》も遊びに来ていたので、「ハルくーん!」と声を掛けたら、他の子たちに気味悪がられたのだという。

「そんな子いないよって。幽霊だって言われて、ショックでした。でも、気づいたら《ハルくん》はどこかに行ってしまっていて……」

 それからは、《ハルくん》に会うことが滅多になくなった。

 市民プールの一件の後、石田さんの心の中には、《ハルくん》は友人たちの言うとおりで幽霊かもしれないという疑いがときどき萌すようになった。しかし、その都度、本当は居ないだなんて、そんなわけがないと思い直したのだった。

「一緒にクレヨンで絵を描いたこともあったんですよ? おやつを分け合ったり、砂場で遊んだりしたことも。幽霊に砂場でトンネルが作れますか?」

 けれども、次第に石田さんは成長して、賢くなっていった。10歳にもなると、《ハルくん》が普通の子供ではないと思うようになった。ひとたび気がつきはじめたら、彼には山ほどおかしな点があった。

「《ハルくん》の家がどこかもわからないし、お母さんやお父さんが夕方になると迎えにきたこともない。うちに遊びに来たときも、私と一緒に玄関から入るか、いつの間にか上がり込んでて、帰るところを見たことがないなって……」


《ハルくん》を最後に見たのは、小学校5年生のクリスマス・イブだった。

 居間のクリスマスツリーを点灯したら、もみの木の向こう側に現れた。石田さんが「あっ」と声を上げると同時に、横歩きして木の陰に隠れた。このことを石田さんは両親に話さなかった。

 なぜなら、《ハルくん》は幽霊か何かで、そしてそんなものが居ると信じるなんて、普通じゃないと思ったから。

 石田さんの両親は、娘を観察していて、もう1年以上、彼女は《ハルくん》に会っていないようだと判断し、死んだ長男についてあらためて話すことにした。

 そして、中学校の入学式の直前に、家族3人で墓参りに行ったそうだ。

「そのとき、水子供養もしました。両親とも用意周到で、私に話す前に、水子地蔵を注文したりご祈祷の予約を取ったりしてたんですよ。あと、《ハルくん》については、最近になってひとつだけ不思議なことがあって、《ハルくん》の“きかんしゃトーマス”の青いトレーナーが実家のクローゼットからひょっこり出てきたんです。一昨年、家をリフォームする準備で、片づけを手伝いに行ったときに見つけました」

 7、8歳のときに、家族で富士急ハイランドに行った折に、石田さんのとお揃いで購入したものだそうだ。

「母の話では、富士急ハイランドに着いてみると思ってたより寒くて、私に買って着せようと、赤いトレーナーを売店で手に取ったら、そばに《ハルくん》が立っていたんですって。そこで、色違いで2着買って、その場で《ハルくん》にも着せてあげたそうです」

 その話を聞いて、石田さんは、富士急ハイランドで“きかんしゃトーマス”の青いトレーナーを着た《ハルくん》と、“トーマスランド号”に乗った記憶を蘇らせたのだという。

「母が言うには、あの日だけは、ずっと《ハルくん》の姿が自分にも見えていた、と。トレーナーを買ってもらったことが、よっぽど嬉しかったんでしょうね」

【連載:情ノ奇譚まとめはコチラ】

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■川奈まり子
東京都生まれ。作家。女子美術短期大学卒業後、出版社勤務、フリーライターなどを経て31歳~35歳までAV出演。2011年長編官能小説『義母の艶香』(双葉社)で小説家デビュー、2014年ホラー短編&実話怪談集『赤い地獄』(廣済堂)で怪談作家デビュー。以降、精力的に執筆活動を続け、小説、実話怪談の著書多数。近著に『迷家奇譚』(晶文社)、『実話怪談 出没地帯』(河出書房新社)、『実話奇譚 呪情』(竹書房文庫)。日本推理作家協会会員。

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コメント

2:匿名2018年5月20日 04:41 | 返信

泣いてしまった。

1:ランディー2018年5月19日 21:38 | 返信

確かにせ

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