カルト映画レビュー

「イイシラセ イイシラセ」! 清水富美加出演、幸福の科学映画『さらば青春、されど青春。』の矛盾/やや日刊カルト新聞・藤倉善郎

——フリーライター藤倉善郎(やや日刊カルト新聞総裁)、村田らむ、かに三匹の3人が宗教団体制作のカルトムービーを徹底レビュー! 7月17日の「ロックカフェロフト」で開催される「大カルト音楽祭」開催もチェック

カルト映画レビュー第1回:藤倉善郎/『さらば青春、されど青春。』 

「イイシラセ イイシラセ」! 清水富美加出演、幸福の科学映画『さらば青春、されど青春。』の矛盾/やや日刊カルト新聞・藤倉善郎の画像1さらば青春、されど青春。」オフィシャル・メイキングブック

<藤倉採点>
デンパ度:★★★★★
歴史修正度:★★★★★
完成度:★

 今年5月12日に公開された宗教団体「幸福の科学」の最新作『さらば青春、されど青春。』。主演は同教団の教祖・大川隆法総裁の長男・宏洋氏で、約1年前に「電撃出家」を果たした女優・千眼美子清水富美加)氏が教団映画に初登場したことでも話題を集めた。

 脚本原案は総裁の三男・裕太、その妻で女優の雲母(きらら)も出演し、主題歌は清水だが挿入曲は長女・咲也加が歌う。もちろん、制作の総指揮は大川総裁で、幸福の科学マニアにはたまらない大川ファミリー総出製作の映画だ。マニアの間では、公開当初から「さらされ。」「青鯖。」などの略称で親しまれている。

 大川総裁指揮による作品としては12作目となる本作は、大川総裁の自伝的な内容になっている。登場人物の名前を変えフィクション仕立てにはしているものの、『太陽の法』など、大川総裁の著作に登場する青春時代のエピソードが満載だ。何を隠そう、筆者はプレス試写も含めて計4回も劇場で観た

 まず、本作を見る前に幸福の科学の基本的な設定をおさらいしておこう。

●幸福の科学とは?
幸福の科学では、教祖・大川隆法総裁は地球至高神エル・カンターレであり、仏陀の生まれ変わりとされる。1956年に徳島県川島町で生まれた大川総裁は、親が出生届を出し遅れたために実際の誕生日とは違う7月7日が公称誕生日となった。当時の名は中川隆。地元の高校を卒業後、一浪して東京大学に入学。そこでさらに1年留年し、司法試験に落ち、商社トーメン(現・豊田通商)に就職した。

 大学卒業直前に「霊道が開き」、霊の声が聞こえるようになる。商社勤務中に父・善川三朗とともに「大川隆法」の名で、日蓮の霊を呼び出しその言葉を記録したと称する『日蓮聖人の霊言』など、霊言本を次々出版。1986年にトーメンを退社して、幸福の科学を立宗した。

『さらば青春、されど青春。』は、こうした大学入学から教団設立までの大川総裁を描いているのだ。主人公の名は中道真一。冒頭、銀河系から光の玉が飛び出し、日本に落ちてくると、赤ん坊の鳴き声が響き渡る。「1956年7月7日午前7時」という字幕。


■自伝映画『さらば青春、されど青春。』レビュー 前半

物語は、あっという間に成長した真一が、家族に送り出され上京するところから動き出す。実際の大川総裁が大学入学前に一浪した事実は作品では描かれない。真一はすんなり「東城大学」に入学。教室でパンを齧りながらやたら難しそうな本を読んでいたり、教授から論文を絶賛されたり、優秀な努力家学生ぶりを描いたシーンが繰り返される。

 同級生である名門一家の女性に恋をして、言葉を交わしたこともないのに大量のラブレターを一方的に送りつける。その内容は「きみよ この風の声を聞かないか」という、大川総裁が学生時代にしたためたポエムだ。キモい。

 真一は女性にフラれるが(当たり前だ)、当初、女性は真一にラブレターの返事を書こうとする。その内容は、「私はあなたが考えているほど高貴な女性ではありません。しかしあなたが勉学に取り組む姿勢は歴史上の偉人のようです。私はあなたにふさわしい女性ではありません」といった調子。しかし女性はこの返事を破り捨て、最終的に「あなたとはお付き合いできません」という三行半を真一に突きつける。

 初版『太陽の法』にも大川総裁自身が、意中の女性に大量のラブレターを小包で送りつけ、三行半の返事をもらったエピソードが書かれている。映画では小包ではなく7~8通という描き方だったから、だいぶ控えめだ。

 しかし自伝映画だと思って見ていると、このエピソードはおかしい。なぜ大川総裁は、女性が大川総裁を賛美するような返事を書きかけていたとわかるのだろうか。実際に大川総裁のもとに届いた手紙は三行半だけなのに。普通なら「教祖の過去を美化しやがって」とツッコむところだが、この映画に限っては違う。なにせすべてをお見通しの地球至高神・大川総裁だ。きっと女性の本心もお見通しだったに違いない。

ちなみに、この時の憧れの女性役は教団の芸能プロに所属する信者女優。清水富美加ではない。清水がなかなか登場しないので、序盤で延々と描かれるこの女性を清水だと勘違いして「清水富美加、人相変わったなと思っちゃった」などという観客も実際にいた。

 真一はフラれた後もなお、その女性が司法試験を受験すると聞いて自分も受験する。しかし女性は合格、真一は不合格。「しょせん、都会の名門の家柄の人間とは人種が違うのか」と、自分の勉強不足を棚に上げて階級意識に逃げ込んだりする。失意の帰省で、徳島県庁に勤務する父親に向かって「田舎の県庁勤めくらいでエリート言わんわ!」と八つ当たり。かなり嫌なやつだ。

 友人たちが大蔵省などへの就職を決める中、真一は商社への就職を決める。友人たちから「お前ならもっといいところに行けただろう」と不思議がられると、常務から「三顧の礼」で入社を請われたのでその男気に応えたいと見得を切る。ここで、大川総裁の初版『太陽の法』の一節を見てみよう。

〈一年の留年ののち、司法試験は短答式試験には合格するも、論文試験には不合格。国家上級公務員試験も不合格。東大に助手として残ろうとしたのですが、成績不良につき、その道も閉ざされてしまいました。そして、ある商社にやっとひろわれた感じで就職したのです。〉

 だいぶ、話が違う。

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