消えた大阪の海底住居・ガラテの謎 ― 20世紀の人類が思い描いた“幻の近未来”を訪ねて
2020年に開催予定の東京五輪を前に、現在、都心部では急速に既存施設の統廃合や、新規施設の建設ラッシュとなっている。そうした中、この国の人々が「近未来」という漠然としたイメージに胸を躍らせていた頃に作られた時代の象徴が、先頃、ひっそりとその姿を消したという話を耳にした。
「海で暮らす。―それは、人類の見果てぬ夢の一つでした」
かつて大阪南港魚つり園の片隅に佇んでいた構造物の傍らに設置された錆だらけのプレートには、こう記されている。
この構造物は、1970年代にフランスの海洋建築家ジャック・ルージュリー(Jacques Rougerie)氏が開発した「海底住居」で、その名は「ガラテ」(GALATHEE)という。
その名は17世紀のフランスの劇作家、カンピストロン作の演劇『アシスとガラテ』(Acis et Galatee)の作中にも登場するギリシャ神話の海の女神・ガラテに由来している。1977年8月、ルージュリーは、4名の被験者たちをこの海底住居に乗せて海中深くへ沈め、実に1カ月もの間、共同生活を送らせるという実験に挑戦。見事、成功に導いている。世界的に見て、当時は爆発的に人口が増えていた時期ということもあり、先進国の主要部では、深刻な土地不足が叫ばれていた。そんな中、未知の領域であった“海”に、大きな可能性を見出すこととなったこの実験の成功は、多くの人々に衝撃と感動を与えたのであった。
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