空を歩いた男 ー 伝説の大道芸人フィリップ・プティ 〜テロと無縁の征服者〜
【拝啓 澁澤先生、あなたが見たのはどんな夢ですか?~シュルレアリスム、その後~】――マルキ・ド・サド、そして数多くの幻想芸術……。フランス文学者澁澤龍彦が残した功績は大きい。没後20年以上たったいま、偉大な先人に敬意を払いつつ、取りこぼした異端について調査を進める――
■犯罪芸術とは?
犯罪芸術というジャンルがある。たとえばマルキ・ド・サドやオスカー・ワイルドによる性的倒錯。あるいは(アニメーション作品だが)ルパン三世による強盗の数々。社会的には犯罪に分類されるが、同時に芸術としても成立しているような活動のことを指してこう呼ぶ。
今回はそんな犯罪芸術のなかでも、“世界で最も高い場所で行われた事件”の紹介をしたい。
■事件と犯行名
犯行主はフィリップ・プティという名の大道芸人。犯罪が行われたのは地上110階、ニューヨーク・ワールド・トレード・センターのツインタワーである。
罪名は「綱渡り」。
そう、フィリップ・プティは今はなきツインタワーの間を“棒一本を手に”歩いてしまったのである。
■生い立ち
フィリップ・プティは1949年フランス生まれ。自伝『マン・オン・ワイヤー』(白揚社)によると、小さい頃からかなりの問題児だったようで、4歳にして他者に対して軽蔑的な態度を示すようになり、あらゆる物に登って人々から遠ざかろうとする奇行が目立ったそうだ。そして、6歳にしてこう宣言したという。
「大きくなったら、舞台の演出家になる!」
そう宣言して以来、独学で読み書きを身につけたという。しかし、そんな彼の決意と熱意も空しく(?)、素行不良が過ぎて、17歳の時に、ついに両親から勘当されてしまう。その時のことを彼はこう綴っている。
「両親は手に余る個性に対し、17歳の誕生日に法に則って親権を手放すという対応をする。独学で曲芸師、綱渡り師となる。」(『マン・オン・ワイヤー』(白揚社)から引用)
そして、このことがきっかけとなり、彼は大道芸人として生計を立てることになる。
■世界中で綱渡り
フィリップ・プティが犯罪芸術家としてキャリアをスタートさせたのは生まれ故郷フランスでのこと。まずは、1971年6月26日、パリのノートルダム大聖堂(地上75メートル)の2つの尖塔の間の綱渡りに成功。この事件は翌日の新聞を派手に飾ることになった。続いて1973年6月3日にはシドニー・ハーバーブリッジ(世界最大のアーチ型鉄橋)の横断に成功。
この成功から、フィリップ・プティは大きな野望を抱きはじめる。それは、ニューヨークに建設中の超高層ビル・ツインタワー(ノートルダム大聖堂よりもはるかに高い)を綱渡りするというものである。
■綿密な計画
この野望を現実にするため、アメリカに渡ったフィリップ・プティはすぐさまツインタワーに侵入。どうすれば綱渡りを成功させることができるのか、時には“詐病”まで使って綿密な計画を立て始める。その時のことをこう綴っている。
「松葉杖をついて片足を引きずる男はどこでも通してもらえる。人がドアを開けて待ってくれるし、エレベーターのボタンを押してくれるし、一日中『大丈夫ですか?』と訊いてもらえる」(同書より引用)
「知らないうちに警備員が近づいていて、はっとさせられることもあったが、そのたびにわが疾患が警備員をサマリア人に変え、どの警備員も迷子を出口までしっかり見送ってくれた。松葉杖——覚えておくべき秘訣だ」(同書より引用)
■そして、ついに空を歩く!

そして1974年、ついにフィリップ・プティはツインタワーの綱渡りに成功する。地上110階(高さ411m)の高所に、人間はフィリップ・プティ以外誰もいない。そして、一羽の白い鳥がフィリップ・プティに近づいてくる。
「私の上で静かに舞っている、この大きい、白っぽい鳥は何だ?」(同書より引用)
そしてフィリップ・プティは遥か上空で白鳥を相手に対話を続ける。
「僕の恐ろしい秘密を知っているのか? 僕は鳥に変装しているものの、飛べないってことを」(同書)
「本当にたくさん質問があるんだ」(同書)
■美しい犯罪
綱渡りを終えたフィリップ・プティはビルに押しかけた警官に逮捕される。罪名は“綱渡り”である。と、同時に1つの作品も完成したことになる。作品名は、罪名と同じく“綱渡り”である。
2001年、同時多発テロ事件により、ぼろぼろに破壊されたツインタワー。約20年前には同じビルで、誰も傷つけることもなく、もちろん誰の命も奪うことのない美しい犯罪が行われたことを忘れてはならない。
(文=天川智也)
※参考図書(本人自伝)『マン・オン・ワイヤー』(白揚社)

■天川智也(あまかわ・ともや)
1980年生まれ。早稲田大学仏文科卒業。古今東西の奇書を求めて日々奔走している。おもな作品にNHKドラマ『ルームシェアの女』(フランス語作詞)等がある。
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