民俗学者・谷川健一が明かす裏日本の姿とは? 異界研究でわかった沖縄の黒歴史と日本の天狗

■日本の「魔」、天狗伝説を追いかけた

 代表作のひとつに数えられる『魔の系譜』(紀伊国屋書店、後に講談社学術文庫に収録)は1971年に発表されている。ここで谷川が取り上げるのは古代から脈々と受け継がれてきた日本の「魔」である。それは主に、山岳に潜む異形の者、天狗に象徴されてきた、と谷川は言う。

 天狗は異界と俗界を繋ぐ代表者的な存在であり、人々から恐れられると同時に、強く興味を惹き付けるものでもあった。江戸時代後期に活躍した国学者、平田篤胤は漢学のみならず、西洋の学問も批判的に参照しながら、『古事記』に代表される日本の神話的コスモロジーを整理した知識人だが、彼もまた天狗に魅了された者であった。平田は、神隠しにあい、天狗から仙術を授けられた、と自称する「天狗小僧寅吉」を養子として迎い入れている。その後、彼は寅吉の証言をもとにして『仙境異聞』という異界の様子を記した書物を出版する。天狗小僧の証言の真偽は定かではないが、当時の一流知識人である平田の心酔ぶりからは、異界への関心のほどが伺える。

 赤ら顔で鼻が高く、山伏の格好をしたイメージのある天狗だが、天皇家とも繋がりが深い。不遇な生涯を過ごし、反乱の首謀者となった崇徳天皇、後鳥羽天皇、後醍醐天皇は、死後怨霊として魔道に落ち、世に災いをもたらす天狗と化した、と信じられた。天狗と化した天皇への恐れは根深く、1868年には、明治天皇が公式に崇徳天皇の怨霊を沈める儀式を執り行っている。そこには、崇徳天皇を鎮霊することで、戊辰戦争に打ち勝とう、という明治政府の政治的な意図も含まれていた。これを「迷信」と切り捨てることはたやすい。しかし、谷川の仕事は、我々の社会がおよそ150年前にそこまで迷信深かったことを示唆している。

 今度の年末・年始は大型の連休になる人も多いだろう。この機会に谷川の著作に触れ、裏日本の風俗に思いを馳せるのも有意義な過ごし方ではないだろうか?

■カエターノ・武野・コインブラ

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