麻原はなぜサリンを撒いたのか? 森達也インタビュー
麻原はなぜサリンを撒いたのか? 「知らないこと」が生む負の連鎖 ~森達也が考えるオカルトと宗教~

オウム真理教を描いた『A』『A2』などのドキュメンタリー映像作品、そして『「自分の子どもが殺されても同じことが言えるのか」と叫ぶ人に訊きたい』(ダイヤモンド社など、作家活動も行う森達也氏(作家・映画監督)。前回のインタビューでは、メディア腐敗時代に持つべき視点について伺ったが、今回は著書『オカルト 現れるモノ、隠れるモノ、見たいモノ 』(角川書店)でも言及されている「オカルト」について。超常現象、超能力者(自称)、カルト宗教、スピリチュアルブームといった題材をずっと追いかけ続けた森達也氏は、一体今どのようにオカルトを捉えているのか? さらに、1995年3月20日に起きた地下鉄サリン事件からちょうど19年が経とうとしている今、オウム真理教事件が残したものについて、伺った。

――『職業欄はエスパー』(角川文庫)に続いて、昨年、『オカルト』(角川書店)を出版されましたが、森さんの活動範囲の中でオカルトはどういう位置づけなのでしょうか?
森達也氏(以下、森) 以前に『悪役レスラーは笑う』(岩波書店)という本を書いたときは、プロレスは僕にとってどのような位置づけなのかと聞かれました。あるいは『首都圏生きもの記』(学研)を出したときは、なぜ「生きもの」なのかと頻繁に質問されました。答えは今回の『オカルト』も含めて、単純にそのジャンルが好きで興味があるからです。
子どもの頃からプロレスとかオカルトとか虫とか小動物が好きなんです。「プロレスとオカルトは関係があるのですか」と聞かれたりするけれど、論理や一貫性はないです。ただ好きなだけ(笑)。
ならば「なぜオカルトが好きなんですか」と聞かれたら、「まだ見てないから」と答えるかもしれません。UFOだって本当に存在するんだったら自分の目で見てみたい。オカルトだけを特別視しているわけじゃなくて、知らない世界を知りたいんです。
そういう意味では、深海もすごく行きたいですし、ジャングルに行っていろいろな虫を見てみたい。あとマダガスカルにも行きたいですね。マダガスカルは、アフリカ大陸から切り離されたので、固有種がいっぱいいて、珍しい動物や植物がいるんです。極小のカメレオンとかね。おもしろい鉱物もあるし。
■枕元に和服を着た女性が正座していた
――自然の驚異がお好きなんですね。ところで、神秘体験をしたことはありますか?
森 客観的な体験と言えるものはありません。一度だけ中3のときに、自室で受験勉強が終わって布団に入って灯りを消した瞬間に、部屋の中に「誰かいる」と思ったんです。あくまでも感覚です。
この頃は母親が勉強しているかどうか様子を見によく部屋に来ていたので、「また母親かな」と思ったのだけど、見ようとすると体が動かない。いわゆる「金縛り」です。
かろうじて目だけは動いたので見回したら、枕もとに日本髪で和服を着た女性が正座している。さすがにパニックになったんですが、体が動かないからどうしようもない。やがてそのうち女性が顔を少しずつ上げるのだけど、顔の部分だけがはっきりしないんですね。輪郭はわかるんだけど、造作がはっきりしない。その女性が自分の顔を、今度は僕の顔に少しずつくっつけてくるんです。くっついたかどうかという瞬間に顔が溶けたんです。あわてて起き上がって電気をつけて、親を起こしにいった記憶はあるのだけど、そのあとまた自室で寝ているんです。あとから考えると、あんな状況で寝られるわけがないから、夢だったのかもしれません。その意味では確かな体験はないと言っていいと思います。
■信仰を持てば死の恐怖は軽減する
――以前出版された対談本の中で、「死ぬ前に信仰を持ちたい」という話をされていますね。
森 うーん。それは少しひねった言い方なのだけど……。オウムを撮りながら宗教の役割ってなんだろうと考えたときに、その重要なひとつは「死の恐怖」を軽減することだと思いつきました。
当時のオウム施設にはいたるところに「人は死ぬ。絶対死ぬ。必ず死ぬ」と書かれた標語が貼ってありました。死体が少しずつ腐敗して最後には骨になる過程を描いた九相図が示すように、死を意識させることは仏教も同じです。つまりメメントモリ。これはすべての宗教に共通しています。
だって死ぬことは大矛盾です。自分が消えてなくなってしまうわけですから。これほど怖いことはない。信仰はその恐怖を軽減する。だからすべての宗教は、極楽浄土や天国や輪廻転生など、死後の魂の場所を保証します。
つまり信仰を持っていれば死が怖くなくなるから、死が近づいたときに信仰を持っていたら楽なんじゃないかな、と半ば打算的に思って、そのときはそう発言したのかな。まあこういう動機で信仰は持てないとは思うけれど。
――信仰を持つならどの宗教がいいですか?
森 仏陀が唱えた本来の仏教は無常です。つまり浄土や転生は後からくっついてきたもの。僕のよこしまな動機であれば、一神教ということになるのかな。教会とかお寺とか宗教施設は好きでよく行ったりするんです。「祈る」ことは好きなので、たとえばキリスト教に入信することも、自分としてはそれほど違和感はないです。
でも信仰を持ったら、本当に死への恐怖が消えるのかといったら、心の底から信じない限り難しい。それと自爆テロなどが典型だけど、強烈な信仰は生と死を転換してしまう働きがあるので、ときには殺戮すら肯定してしまう。それは宗教の負の部分です。だからほとんど宗教は自殺を強く禁じます。禁じなければ多くの人が自ら死を選んでしまうからです。
――死ぬ瞬間にどれぐらい苦しいんだろうとか、痛いんだろうとか考えると怖いです。
森 死の瞬間の痛みや苦しみは信仰を持ったからといって変わらないだろうけれど、「これは神に与えられた試練だ」と考えれば耐えられるのかもしれません。信仰には人を強くする部分がありますね。
いずれにしても、生きもので唯一、自らが死ぬことを知ってしまったホモサピエンスは、宗教を手放すことはできません。本能的に宗教を求めてしまう。だからこそ宗教は危険です。それは認めたうえで共存を考えないと。
【次ページより「なぜ、麻原はサリンを撒いたのか?」】
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