映画『クライマー』公開記念インタビュー

クライミング界の天才デビッド・ラマが秋葉原で魅せた! 華麗過ぎるボルダリング&インタビュー

P1150755.jpgデビッド・ラマ氏。フリークライミングで登り続ける彼の指に指紋はない

 フリークライミングの天才として、若干18歳にしてワールドチャンピオンに君臨したデビッド・ラマ。彼が、南米パタゴニアにあって、「世界一登頂困難な山」として知られるセロトーレに挑戦したドキュメンタリ映画『クライマー パタゴニアの彼方へ』が8月30日より公開される。

 1959年、イタリア人登山家・チェザレ・マエストリによってセロトーレ(標高3,102メートル)初登頂がなされるも、彼と一緒に登ったトーニ・エッガーは下山中に不慮の死を遂げ、その死とともに、登頂の証拠となるカメラも岩肌に叩き壊されてしまった……。以来、セロトーレの高い難易度とミステリアスなストーリーは、世界中の登山家たちを魅了してやまない。

 同作では、デビッドの2回に渡るセロトーレ登頂のドラマが克明に描かれている。1度目は、ボルトに頼りながら、2度目はフリークライミングで岩肌をよじ登っていくデビッド。その時に頼りになるのは一本のロープだけ。自分の指と足だけで、彼はほとんど垂直の岩肌を懸命に進んでいく。いったい、「謎の山」セロトーレでの経験は何をもたらしたのか? そして、常に隣り合わせの「死」に対して、登山家は何を感じているのだろうか? 来日中の本人を直撃した。

――まず、デビッドがクライミングをはじめたきっかけを教えて下さい。

デビッド・ラマ(以下、デビッド) 僕の母はオーストリア、父はネパールの山岳系の出身で、両親ともハイキングやトレッキングを楽しんでいたんだ。両親がネパールのための援助プログラムに参加している時に出会ったのが、ペーター・ハーベラーというエベレスト無酸素登頂を果たした有名な登山家。彼と両親が友達だったから、僕も「クライミングをしてみない?」と誘われたんだ。それが5歳の頃だね。

――すでに5歳から岩をよじ登っていたんですね。

デビッド 8歳の頃からコンペティションに参加し、ユースの大会では獲れるものを全部獲ってしまった。本来、シニアの大会は16歳からでないと出場が許されないんだけど、頼み込んで15歳で参加したんだ。その時は2位に終わったんだけど、翌年は優勝して、ヨーロッパチャンピオンを2回、ワールドカップでも総合優勝を経験した。気づいたら、クライミングのすべてのタイトルを獲りつくしちゃっていたんだよ。動画は、YouTubeより


――そして、コンペ会場から自然の山へとフィールドを移していくんですね。

デビッド もともと、コンペに参加しながら、平行して自然の岩でのクライミングも続けていた。けれど、だんだんと登る岩が大きくなって、いつしか本格的な登山に発展していったんだ。

 

――山には、コンペにはない魅力があるのでしょうか?

P1150746.JPG真摯に質問に答えてくれるデビッド

デビッド コンペの場合は、他のクライマーと自分とを比較をしているよね。自然の山を登る時の醍醐味は、他人との比較ではなく自分自身を表現できること。登り方や、登るライン(ルート)で、自分を表現するんだ。

――「登り方で自分を表現する」とはどういうことでしょうか?

デビッド 例えば、クライマーには山の突起やひび割れをつなげて「このラインで登っていける」という線が見えている。それと同時に、フリークライミングか、それとも道具を使うかといった登り方もヴィジョンとして見えてくるんだ。ただ、そんなヴィジョンは頭の中にあって現実には存在はしないもの。けれども、実際に登頂すれば、そのラインが現実として岩肌に描かれていくんだよ。その表現は、とても「美しいこと」だと思うんだ。

――山には「神秘的な力」が宿っていると昔から言われます。デビッドも、山で神秘体験の経験はありますか?

デビッド セロトーレは確かに神秘的な存在だね。マエストリの登頂疑惑といった、神秘のヴェールにも包まれているし。ただ……個人的にはあまり迷信深いほうじゃないから、そういう神秘体験はないかな。

――セロトーレの極限状況は常に死と隣り合わせにあります。いったい、この極限状況の中で、デビッドは何を考えながら登っているのでしょうか?

デビッド そうだね。セロトーレの山の上では、普段とはだいぶ違う状況に追い込まれる。登りながら強いられる選択はいつも結果に直結していて、もしかしたら最悪の結果だってあり得る。そんなリスクの中で、どのように選択しゴールまで辿り着くかを考えていると、自分がどんな人間であり、何をやりたいのかという視線を研ぎ澄ませてくれるんだ。

――死と隣り合わせにあることで、内なる自分を見つめることができる。

デビッド だから、困難にぶつかっても、自分のやり方でやり遂げることがとても重要なんだ。困難を迂回したり、簡単な方法でやり遂げることは間違っている。今回、セロトーレに登りながら気づいたのは、ブレないことの大切さ。自分の中で生み出したパーフェクトなビジョンをどうやって成し遂げるか。それをブレずに達成するんだ。

――では、デビッドにとって「死」とは何でしょうか?

デビッド そうだね……。人間は絶対に、死から逃げることなんてできないよね。だから、死を恐れてばかりではいられない。裏を返せば、それは、自分の求める方法で生きること

 デビッドの「表現」は、まさに死と隣り合わせになることで生まれる。セロトーレの岩肌にしがみつきながら死を意識することで、自分自身を、そして生きることを実感しようとしているのだ。世界の頂点を極めた男の視界には、常人には見ることのできない風景が広がっているのだろう。
(取材・文=萩原雄太 撮影協力=B-PUMP 秋葉原店


クライマー パタゴニアの彼方へ
監督:トーマス・ディルンホーファー
主演:デビッド・ラマ/ペーター・オルトナー/トーニ・ポーンホルツァー/ジム・ブリッドウェル
2014/08/30(土) より新宿ピカデリー他、全国公開

映画予告編「Youtube」より

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