死体を売って金稼ぎ! 「バークとヘア連続殺人事件」と謎の17の棺 ~未解決ミステリー~

 さて、今回、ご紹介したいのは、19世紀スコットランドの闇に灯った禍々しい篝火(かがりび)─「Burke&Hare」と呼ばれる二人組がしでかした数奇な連続殺人の物語だ。

そんな子はバークとヘアにさらわれるぞ――。事件発生からおよそ200年がたつが、彼らは今なお、聞き分けの悪い子どもたちへの脅し文句にその名をとどめているという。

死体を売って金稼ぎ! 「バークとヘア連続殺人事件」と謎の17の棺 ~未解決ミステリー~の画像1
画像は、バーク&ヘア The Secrets of Scotland Yard: Burke & Hare「YouTube」より。


■「バーク&ヘア」の裏稼業

 時は1827年11月。スコットランドの首都エディンバラの街での出来事だ。

 ひなびた陋巷(ろうこう)に、青色吐息で、なんとか日々の糧を稼ぐ二人組が、ひょんなことから、禁断の〈事業〉に手を染めた。片割れである、ウィリアム・ヘア(William Hare)が、貧民宿をはじめたことが事件の発端だった。間借り人の老人が死んだ時、ヘアは、やはり間借り人の1人であるウィリアム・バーク(William Burke)と共謀し、遺体を棺から盗み出すと、王立エディンバラ外科学校の解剖学教授で外科医のドクター・ロバート・ノックス(Robert Knox)のもとに持ち込んだ。

 ここは、現在のエディンバラ大学医学部の前身で、大学自体は1583年に設立されている。イギリスで6番目に古く、これまでに11人のノーベル賞受賞者が輩出した国立大学だ。『シャーロック・ホームズ』シリーズで知られるコナン・ドイルや、『進化論』を著したシャールズ・ダーウィン、『国富論』のアダム・スミスらの出身校だと書けば、その名門ぶりがわかろうというもの。

 さて2人は、解剖用死体の代金として7ポンド10シリングを手にした。そして、すぐに気がついた。これがボロい商売だということに。なにしろ元手はまったくかからない。興奮してはしゃぎまわる彼らだったが、せっかくの大金はたちまちそれぞれの妻と愛人に巻き上げられてしまった。

 一度金の味をしめると、人間は後戻りが効かなくなるものらしい。が、〈在庫〉は早くも底をついている。そこで、バーク&ヘアは独自のルートで、〈商品〉を調達することにした。こうして、トンデモコンビの暗躍が始まった。

■酔わせて、首をギュッ  17人の被害者たち

 顔見知りを見つけては「一杯やらないか」と、言葉巧みに宿の一室に誘いこみ、しこたま酔わせ、意識がもうろうとした状態になるや、首を絞めて窒息死させるのが、彼らの十八番(おはこ)だった。

 最初にバークとヘアの毒牙にかかったのは、なんと、やはり間借り人の1人、病弱な粉引きのジョセフだった。次に、年金生活者のアビゲイル・シンプソン。そして、娼婦のメリー・パターソン。さらに、女乞食エフィーと続くが、驚くなかれ、彼ら2人組は警察に保護されていたエフィーの身元引受人だと騙って連れ出し、1時間としないうちに、〈新鮮なまま〉即刻、医学校に送りこんだというから、オソロシイ。

 そして、老女、耳の聞こえない少年、知り合いの婦人、親戚と被害者を広げ…そのうちとうとう、バークの愛人ヘレン・マクドゥガル(Helen M’Dougal)とヘアの妻マーガレット(Margaret Hare)も、〈新事業〉の担い手として動員されてしまった。4人がかりの殺人工房は大忙し。さてと、次は、どいつを送ろうか? そして商品狩りは続いた…。

 ダフト・ジェイミー(Daft Jamie/愚かなジェイミー)と呼ばれた、知的障害がある上に足が不自由な12歳の少年。老娼婦メリー・ハルダン。そして、「うちの母知りませんか? どこかに行っちゃって…」と、宿を訪ねてきたその娘のペギー。彼女も母親に続き、医学校の解剖台の上に横たわることになった。

 …と、そんな具合で彼らは、10カ月間にわたって、16人をあの世に送り、事情を知らぬが仏のドクター・ノックスに〈納入〉した。順調に業績を伸ばす新事業だったが、ある日、ヘアの間借り人が遺体の一部を発見したことから足がつく。警察の到着前に、彼らは素早く死体を始末したが、前代未聞の冷血の宴はあっけなくその幕を閉じた。

 …と、このあたりで、事件をブラック・コメディー化した2010年のイギリス映画『Burke & Hare』(監督はジョン・ランディス)の予告編を、ご参考までにご覧いただきたい。

■宴の後の5人の運命

 逮捕の後、ヘアは罪を認め、相棒を売ることと引き換えに減刑された。一方、バークは、1829年12月28日公開処刑された後、医学校の解剖台に乗るはめになり、彼が手にかけた犠牲者たちのそれと鏡映しになった。現在でも、彼の骨格標本はエディンバラ大学医学部の資料室に展示されている。

 一方のヘアは1829年の春先に釈放されたが、その後の行方は知れず、イングランドに遁走した後、石灰岩の炭鉱に投げこまれて盲になり、残りの人生を乞食のように過ごすことを余儀なくされたなどと囁かれている。さもありなん…だが、これが真実である保証はない。

 そうそう、バークの愛人ヘレン・マクドゥガルと、ヘアの妻マーガレットのその後についても触れておかなければなるまい。バークの処刑後、ヘレンは震える足で宿に戻ったが、怒れる群衆から手ひどいリンチを受けた。もはやいたたまれず、イングランドに逃亡。終いにはオーストラリアに渡り、1868年に死んだと伝えられている。マーガレットもまたリンチを逃げようと、アイルランドに向かったとされているものの、その後のことはわかっていない。なお、ドクター・ロバート・ノックスは死体の出処を知らなかったとして、罪を問われずに済んだが、人望は下落し、職を追われた。ロンドンの癌病院に転職し、1862年に死んだという。

 5人の当事者たちは、ことごとく悲惨な生涯をたどり、かくして1820年代末のエディンバラを恐怖のどん底に陥れた、前代未聞の連続殺人事件は幕を閉じた。だが、何か、忘れていやしまいか? そう、犠牲者たちのことだ。彼らの魂は安らかに天国にゆけたのだろうか?

■あらたな謎のはじまり

 この物語は、まだ終わらない。時は流れ、1836年─。事件の第二章が何の前触れもなく、幕を切った。

 発端は、エディンバラに住む5人の少年のたわいないウサギ狩りにあった。巨大な火山「アーサー王の玉座(Arthur’s Seat)」の北東辺で遊びに興じていた彼らは、その丘の腹にぽっかりと口を開けた洞窟に出くわす。そして中に入ると、世にも不気味な17体の人形を見つけたのだ。指ほどの大きさで、それぞれが小さな棺に納められていた。数といい、姿形といい、市民がバーク&ヘアの犠牲者を思い浮かべたのは自然な ─ いや、至極当然のことだった。

■歪んだコレクションか、清らかな弔いか? 人形を隠した犯人を巡って

 ここで「アーサー王の玉座」の画像をご覧いただきたい。これは約3億5,000 万年以上前の大噴火以来、長らく鳴りを潜めている巨大火山の一部で、エディンバラの街なら、どこにいても目に映る。遠望したその姿はしばしば、うずくまるライオンに似ているといわれている。余談だが、円卓の騎士の物語で知られるあの伝説のアーサー王がなぜ、火山と関係づけられるようになったかには諸説がある。なかでも、地元の言葉であるゲール語で「矢で届く高さ」を意味する「アルト ナ セート」が誤って伝えられ、「アーサーズ シート」に変わったとするものは興味深い。

 さて、棺に入った人形は明らかに、3つに分類されていた。1つは上に置かれ、中央に8つ、また下に8つが配置されていた。女性像も混じっていたがほとんどが男性像だった。あるものは新しく見えたのに対し、中には朽ちている物もあった。

 こんな場所に人形を隠したのは誰なのか、またその理由は? 犯人をめぐり、「魔女の仕業ではないか」「この洞窟は、海で命を落とした水夫のための埋葬場だったのではないか」など様々な意見が上がったが、もちろん、「ヘアの仕業」だと想像した人も多かった。報告によれば、ヘアは動物を虐待して殺すなど、精神病の傾向を示していたという。そう考えると、犠牲者の死後、ヘアが記念として人形を作り、山ふところの洞穴深くに、ひそかに隠した可能性や、事件後に、時を経て、この奇妙な儀式を執り行った可能性が浮上してくる。そうすると、人形の中に新しい物と古い物がある理由も説明できるかもしれない。それが、歪んだコレクション欲から出た行動か、清らかな弔いなのかはわからない。しかし、弔いだとしたら、ずいぶん掟破りなやり方であるにせよ、象徴的に埋葬されることで、死者の魂は、最終的に安らぎを得たといえるかもしれない。

 「いや、それはバークの仕業だ」という意見もある。しかしながら、近年になって行われたDNA検査では、人形とバークの間には何の関係も見出せなかった。ともあれ、そんなこんなで、棺に入った人形たちはいつしか「アーサー王の玉座の殺人人形(the Murder Dolls of Arthur’s Seat)」と呼ばれるようになった。 バーク&ヘア事件との確とした結びつきがあいまいなままに…。

 17体の人形のうち8つは現在、スコットランド国立エディンバラ博物館に展示されている。無表情に宙をみつめる彼らの口は固く閉ざされ、おいそれとは出生の謎を語ってくれそうにも思えない…。

 さて、ここまでおつきあいくださった読者は、すでにエディンバラの街の飛びきりの怪しさにすっかり魅せられてしまったのではあるまいか? 筆者はスコットランド観光局から一銭もリベートを受けとっていないけれど、卒業旅行やハネムーンには是非、お訪ねくださいネ。

 が、それもそのはず、実はあの『ハリー・ポッターと賢者の石』(1997年)を、J・K・ローリングが書き上げた場所は、この街のカフェ「エレファントハウス」だったのだ。さらにまた、この物語に登場する城、ホグワーツ魔法魔術学校のモデルがエディンバラ城であることもまた、半ば公然の秘密とされている。

 最後に、この事件を描いたカリカチュア(戯画・風刺画)をバックに、ロビン・レインの歌う「バークとヘアの唄」を聴きながら、筆をおくことにしよう。冷酷非道な二人組をことさら面白可笑しくとりたてて、恐怖を笑いに転嫁して消費しつつ、しかし記憶の風化を防止する、イギリス人のねじれたたくましさを、そこに見る思いがする。

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文=石川翠

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