超天才サルヴァドール・ダリの意外と知らない10の秘密・前編 

超天才サルヴァドール・ダリの意外と知らない10の秘密・前編 の画像1※イメージ画像:『サルバドール・ダリ』

超天才サルヴァドール・ダリの意外と知らない10の秘密 前編

ダリってダリ?

 前世紀の初頭、なんの前触れもなく、スペイン東北部の田舎町に降臨した超ド級のトンデモ画家、サルヴァドール・ダリ(Salvador Dali/1904─1989)─。おそらく彼は、20世紀の産んだ最も有名な人間の1人にちがいない。だが、それにはワケがあった。

 確かに、彼の芸術は意味深でハイ・グレードだが、その高名は奇妙なパーソナリティやファッション・センス、そしてトレード・マークのあの八の字ヒゲなど、要するに、その途方も無いショーマン・シップに由来していたのではないだろうか?

 それにしても…彼は気がヘンだったのだろうか、それとも、そうしたものが彼一流の「芸術的な生き方」だったのか? 恐らくそのどちらも間違っていない。

 さて今回は、たぶん、シュルレアリスム(超現実主義)を突破した唯一の怪人、プブル公爵こと、サルバドー・ドメネク・ファリプ・ジャシン・ダリ・イ・ドメネク(彼の名は、地元カタルーニャ語だとこんな風に発音される)氏の人生絵巻を、ちょっぴり覗き見したいと思う。はてさて、鬼がでるか、蛇がでるか。いざ、ヒューマン・ビーイングの可能性の極北へ!!


1、生まれ変わった残りカス? ぼくイコール死んだ兄マイナス善

 ダリの奇妙奇天烈(きみょうきてれつ)な人生を解く鍵は、きっと、そのユニーク過ぎる幼年期の薄明の中にこそ、潜んでいる。

 まだ、ダリが生まれる前のこと─―。彼の母親は、もう1人のサルヴァドール・ダリを生んでいた…。だが、悲しいことに、第1のサルヴァドールは22カ月あまりで、胃の感染症のため世を去った。

 第2のサルヴァドール ─つまり、わたしたちのダリ─ が生まれたのは、そのカッキリ9カ月後だった。しかもセカンドはファーストと瓜二つだったため、両親は彼を死んだ息子の生まれ変わりではないかと考えるようになったそうだ。このテーマにご関心のある読者は、筆者のコラム「ポロック家の生まれ変わりの双子」をご覧いただきたい。

 ダリが5歳になった時、両親は彼を、死んだファースト・サルヴァドールの墓前に連れて行って、「わたしたちはお前が、お兄さんの生まれ変わりだと信じている」と語りかけた。これはダリにとって、頭がグラグラするほどの大ショックだったらしい。

「ぼくは、一度生まれて死んだ人間の再来なんだ。でも…もし、ぼくがなんでもない人間なら、そのまま死んでいるはずだよね。なのに蘇ったということは、選ばれたってことなんじゃないかな? ぼくの名前…。サルヴァドールだし」

 ちなみに、Salvadorはスペイン語とポルトガル語で救世主、イエス・キリストを意味する。そう、イエスは死後3日して、復活を果たす。

 その後のダリの営みのあちらこちらには、「自分の最良の部分」と信じる死んだ兄へのほのめかしが含まれているようだ。彼はこんな風に考えたのかもしれない。

「兄ダリの中には善と悪がまじりあっていた。生まれ変わりの自分がこの世に持ってきたのは、そのうち、悪の部分だけだった。それは兄ダリが、良いものをぼくに手渡さなかったからだ」

 幼いダリは、こうして、〈復活した不完全なイエス〉、〈黒いキリスト〉としての自分を再発見する…。このトラウマを思わせる内的体験から、同じ年に起きたいくつかの奇妙な出来事を説明できるかもしれない。

2、食べられるくらいなら、食べてやる 幼年時代のサディズム

 ダリにとって、幼い時分から、快楽と苦痛はほとんど同じものだった。少なくともこのことは、はっきりした理由もないのに、やたら他人を攻撃した彼の子ども時代の謎を解き明かしてくれるだろう。

中でも最悪のエピソードは、友人と並んで橋を渡ろうとした際、らんかんの一部がもげているのに気づいたときに起こった。周りに誰もいないのを確かめると、ダリは友人を川面に突き落としたのだ。相手の少年はほぼ5メートル下の、尖った岩の上に落ちて、重症を負った。

 駆けつけた母親が傷ついた息子の手当をする横で、5歳のダリは静かにお座りして、笑顔を浮かべながらボウルからサクランボウを食べつづけた。ボウルの水は、息子の飛び跳ねた血で紅くにごっていたというのに。ダリに罪悪感? そんなものはサラサラなかったにちがいない。
 
 また、やはり5歳のときのこと─。ダリが、庭で羽をバタつかせていた傷ついたコウモリの世話をしていると、またもや奇妙な事件が発生した。
 
 ある日、彼はそのコウモリに蟻が群がって、ゆっくり食べているのに気がついた。そして、ダリはなんと、かすかに震えるコウモリをひったくると、蟻がついたまま、口の中に入れて、音を立てて、噛み砕いたのだった!

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