異端の神・澁澤龍彦は「パクり王」だった? 文章コラージュの芸術性を考察してみた

異端の神・澁澤龍彦は「パクり王」だった? 文章コラージュの芸術性を考察してみたの画像1マックス・エルンスト「百頭女」からの一作 画像は「Temps Contraires」より引用

 シュルレアリスムにおける重要な概念のひとつに、「コラージュ」というものがある。今回は、この概念について説明するとともに、この連載タイトルでもおなじみの澁澤龍彦という大量のコラージュ作品を残した作家について紹介しよう。


■コラージュとはなにか?

異端の神・澁澤龍彦は「パクり王」だった? 文章コラージュの芸術性を考察してみたの画像2
マックス・エルンストのコラージュ作品
画像は「The Red List」より引用

 1919年、シュルレアリストのアンドレ・ブルトンが「作品の制作を主観による操作ではなく、客観に任せる」ために自動記述の実験を行ったことは前回書いた。そして、同時期にマックス・エルンストという画家は「コラージュ」という技法を用いて作品を制作している。

 コラージュとは、まったく異なる素材(雑誌の挿絵等)を切り抜き、組み合わせる技法だが、主観的に素材を組み合わせることによって作品を制作するのではなく、組み合わされた素材が見せる作者の意図しなかった様相を客観的に楽しむことで、結果的に創造を行ってしまう行為のことである。この、「客観的に見る」ということがポイントだ。主体によるコントロールを避けるという点で、コラージュは自動記述とよく似ているのだ。

■シュルレアリストとしての澁澤龍彦

異端の神・澁澤龍彦は「パクり王」だった? 文章コラージュの芸術性を考察してみたの画像3サド復活』(角川春樹事務所)

 マックス・エルンストは挿絵や図版を組み合わせ、さまざまなコラージュ作品(代表作『百頭女』等)を制作した。しかし、コラージュに使われる素材は挿絵や図版に限らない。その全作品を通して大量の文章コラージュを行った人物こそ、作家・澁澤龍彦だった。

「死刑台に立たされた犠牲者は、いわば生の流れを中断された存在、普遍性から離れ、個物の特殊性のなかに閉じ込められた人間である。突然の死が、しかし、この人間に存在の普遍性を取りもどし、特殊性の被膜を打ち破ってくれる。すなわちこの暴力的な行為が犠牲者からその有限的性格を奪い去り、死という非有限性、神聖な領域に属する無限的性格を賦与することによって、犠牲の行為は完成されるのである」(澁澤龍彦『サド復活』「暴力と表現」より)

 この文章は、1959年発行の『サド復活』という書物に収録されている「暴力と表現」というエッセイの一部だが、シュルレアリスム周辺の文化に馴染んだ人なら既視感を覚えるに違いない。なぜならばこの部分は、ジョルジュ・バタイユの『エロティシズム』からの引き写しだからだ。では、さっそく元ネタの該当箇所を見てみよう。

異端の神・澁澤龍彦は「パクり王」だった? 文章コラージュの芸術性を考察してみたの画像4エロティシズム』(二見書房)

「その目的は、犠牲者となるべき存在を突然に変化させることである。犠牲者となるべき存在は死に追いやられるのだ。殺される前に、彼は個体の特殊性のなかに閉じこめられる。すでに序論で述べたように、彼の存在はそのとき非連続的である。しかし死において、この存在はふたたび存在の連続性に、特殊性の喪失に連れもどされる。この暴力的行動は、犠牲者からその限定的な性格を奪い、聖なる領域に属する非限定性、無限の性格を犠牲者にあたえつつ、その行動の深刻な結果にいたるまで求められるのだ」(ジョルジュ・バタイユ『エロティシズム』より)

 若干の用語の入れ替えはあるものの、意味や論理の流れはまったく同一であり、剽窃と指摘される可能性さえあるだろう。しかし、これは剽窃ではなくあくまでもコラージュであると言いたい。なぜならば、ジョルジュ・バタイユのこの書物は澁澤龍彦本人の手によって1973年に翻訳刊行されているからだ。剽窃という意識があったならば、隠蔽こそすれ、出版などして世に送り出したりしないだろう。

 実は、調べれば調べるほど、澁澤龍彦という作家の作品には全編に渡って引き写し資料、つまり元ネタがあることがわかってくる。数カ所の引き写しなら剽窃だろうが、ほぼすべての作品に素材があるとなると、やはりコラージュという明確な意識をもって文章を組み立てていたというべきだ。

 さらに例を挙げれば、澁澤作品の『狂帝ヘリオガバルスあるいはデカダンスの一考察』という評伝における名詞の羅列。これもロラン・ヴィルヌーヴの本からの引用だ。

「皇帝の食道楽には愕くべきものがある。ラヴェンナのアスパラガス、タレントの牡蠣、シチリアの海蛇、イオニアの松鶏、イスパニアの蜂蜜、ガリアの去勢鶏、シリアの梨、ヌミディアの松露は言うに及ばず、駱駝の踵肉、八目鰻の白子、孔雀の卵、紅鶴の舌、サフランの香油にひたした針鼠の肉、似鰉の内臓……」(澁澤龍彦『異端の肖像』「狂帝ヘリオガバルスあるいはデカダンスの一考察」より)

人気連載

フォトショ以前のコラージュ写真と戦前の犯罪現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

フォトショ以前のコラージュ写真と戦前の犯罪現場写真集! 驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する奇妙な本

――【連載】驚異の陳列室「書肆ゲンシシャ」が所蔵する想像を超えたコレクションを徹...

2022.11.17 17:00歴史・民俗学
「ロシアは弱い核兵器を使わない」 最強水爆“ツァーリ・ボンバ”級核でウクライナを完全破壊か?(ジェームズ斉藤)

「ロシアは弱い核兵器を使わない」 最強水爆“ツァーリ・ボンバ”級核でウクライナを完全破壊か?(ジェームズ斉藤)

【連載:某国諜報機関関係者で一切の情報が国家機密扱いのジェームズ斉藤(@Jame...

2022.10.25 20:00第三次世界大戦
ロシア軍敗北は演出、クリミア橋爆破は「核兵器使用のため」だった! プーチンの謀略で“欧州経済崩壊&NATO分裂”へ(ジェームズ斉藤)

ロシア軍敗北は演出、クリミア橋爆破は「核兵器使用のため」だった! プーチンの謀略で“欧州経済崩壊&NATO分裂”へ(ジェームズ斉藤)

【連載:某国諜報機関関係者で一切の情報が国家機密扱いのジェームズ斉藤(@Ja...

2022.10.24 20:00第三次世界大戦
円安は来年3月に終わるはずだった…「1ドル=200円超」岸田政権の売国級判断で貧困加速へ! ジェームズ斉藤

円安は来年3月に終わるはずだった…「1ドル=200円超」岸田政権の売国級判断で貧困加速へ! ジェームズ斉藤

【連載:某国諜報機関関係者で一切の情報が国家機密扱いのジェームズ斉藤(@Jame...

2022.10.20 20:00陰謀論・政治
年末に向けて心身を整える波動商品3選! 人工知能にも勝てる美容クリーム、金運が上昇する念写写真、低周波が効く波動鉱石

年末に向けて心身を整える波動商品3選! 人工知能にも勝てる美容クリーム、金運が上昇する念写写真、低周波が効く波動鉱石

 不思議ジャーナリストの広瀬学氏は、科学では解明できないこの世の不思議を探求...

2022.11.18 14:00スピリチュアル

異端の神・澁澤龍彦は「パクり王」だった? 文章コラージュの芸術性を考察してみたのページです。などの最新ニュースは知的好奇心を刺激するニュースを配信するTOCANAで

トカナ TOCANA公式チャンネル