タリウム中毒での詳しい死に方とジワジワ ― 「カリウム」に偽装して細胞に入り込む【ググっても出ない毒薬の手帳】

【ヘルドクター・クラレのググっても出ない毒薬の手帳 第7回、タリウム/後編】

※タリウム「前編」はコチラ

タリウム中毒での詳しい死に方とジワジワ ― 「カリウム」に偽装して細胞に入り込む【ググっても出ない毒薬の手帳】の画像1タリウム、画像は「Wikipedia」より引用

 かつては殺鼠剤として使われ、毒殺といえばタリウムというなんだかよくわからないイメージが付きまとう、蠱惑の重金属、タリウム。

 そんな毒物の生理的な一面を見ていこう。


■タリウムの症状

 タリウムの中毒は、理由は後述しますがゆっくり進行するのが特徴です。

 多くの場合、一過性の悪心、嘔吐などとともに神経痛や知覚の異常(光が乱れて見えたり、幻覚、幻聴など)が生じます。さらに多くのタリウムが体内にある場合、神経症状が進み、自律神経などの、意図せず動いているはずの神経系がまともに機能しなくなることで、血圧の異常上昇、頻脈、流涎(唾液が止まらなくなる)、体温の乱高下などが起こります。

 加えて、代謝によって排出が間に合わないほどタリウムが体内にあると、神経自体が死にはじめ、死ななくても歩行困難や失明、永久的脱毛などの重い後遺症が残ります。

 ちなみに、昭和初期には、タリウムの細胞毒性を逆手にとった脱毛クリームがあり、含有量10%という恐るべき除毛クリームが売られていました。タリウムは経皮吸収性も高く、毛根の細胞を速やかに殺すでしょうから、かなり痛み無く(細かい神経も死ぬだろうし)永久脱毛ができたと思われます。もちろん、目的以外の場所の脱毛が起こる可能性もありますし、なにより危険すぎるので現在はタリウムによる脱毛は行われていません(笑)。

タリウム中毒での詳しい死に方とジワジワ ― 「カリウム」に偽装して細胞に入り込む【ググっても出ない毒薬の手帳】の画像3イメージ画像:「Thinkstock」より

■カリウムと似たタリウム

 タリウムは神経細胞が活動するための酵素系に特にダメージを与え、細胞を殺す毒性から「細胞毒」と呼ばれるカテゴリーに入ります。

 カリウムとは1文字違いなので間違えやすい……という訳では無いのですが、体内での挙動がカリウムに近く、「トリカブトと神経毒」の回で説明したように、神経細胞はカリウムと密接な関係にあります。まぁ大半の細胞はカリウムとナトリウムが必須なんですが(笑)。

 ゆえに、カリウムと元素的振る舞いが似ているタリウムは、カリウムですよー……と細胞内に入るものの、カリウムではないので細胞の中であれこれ悪さをします

 そうして細胞がじわじわと死んでから毒性が出るために、急性中毒でも12~24時間の潜伏時間があり、さらに解毒剤も「プルシアンブルー」か、「カリウム剤」くらいしかありません。医師が早めにタリウム中毒であると気がつけば、そうした治療もできなくはないですが、タリウム自体に際立った症状が少ないために見逃されることが多いわけです。そもそも毒を盛るという事件がそんなに頻繁にあってはたまりませんので、普通は分からなくて当然です。

 致死量は、人間で10~20mg/kgと言われており、(○○酸の部分を除いたタリウム分量として)1g程度で、体中のあちこちが壊れてゆっくり死に至るという極めてたちの悪い毒性を発揮します。

 そうしたゆっくりと相手が苦しんで死んでいくという点が、多くの毒殺犯の嗜虐性を満たすのでしょうが、盛られた方はたまったものではないです。それでも、10年に1回くらいのペースでタリウムをわざわざ選んで盛る犯罪者が登場するので、こうした特徴を少しでも覚えておいて損はないかもしれません。
 (文=くられ/シリーズまとめ読みはコチラ

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■くられ
 添加物を駆使した食欲の失せるカラフルな料理やら、露悪的で馬鹿げた実験を紹介していく、「アリエナイ理科ノ教科書」の著者、サイエンスライター。公演やテレビ出演なども多数。無料のメールマガジンも配信している。お面をしているのは別に指名手配されているからではない。
KURARERAKU
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【これまでの猛毒一覧】
・青酸カリ「前編」「後編
・リシン「前編」「後編
・クロロホルム「前編」「後編
・一酸化炭素「前編」「後編
・覚せい剤「前編」「中編」「後編
・トリカブト「前編」「後編
・タリウム「前編」「後編

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