見ているだけで鬱になる絵 ― “不気味な水平線”を追い求めたトワイヤンの根暗すぎる世界

 たしか学生時代のことだったと思うが、1冊の本を買った。タイトルは『Les Grandes figures du SURRÉALISME international(シュルレアリスム人物事典国際版)』 。事典といっても、250ページほどの薄いものなのだが、アンドレ・ブルトンらの大御所から、マイナーなシュルレアリストまで幅広く紹介されていて、当時はカタログとして重宝したことを思いだす。

 ちなみにこの本、国際版と銘打っている割には、アジア圏からはただ1人、瀧口修造がエントリーされているのみ。以前紹介した瑛九なども収録されていいと思うのだが……。まあ、そういう超マイナーな作家たちは、このコーナーで紹介していけばよいだろう。

見ているだけで鬱になる絵 ― 不気味な水平線を追い求めたトワイヤンの根暗すぎる世界の画像1トワイヤン“Objekt-fantom”(1937)


■偉大な画家、しかしあまり知られていない

 そこで今回は、トワイヤン(本名:マリー・ジェルミーノヴァ)というチェコの女性シュルレアリストを紹介したい。というのも、トワイヤンという画家はこの事典のなかで、“Grand peintre, mais un peu méconnue(偉大な画家、しかしあまり知られていない)”と、まさにこの連載で取り上げるにふさわしい紹介のされ方をしているからである。

【トワイヤン年譜】
 1902年プラハ生まれ。23年、プラハで「デヴェルチュシル」というフランツ・カフカも所属していた前衛芸術グループのメンバーになる。25年から29年にかけて、夫のインデリッヒ・シュティルスキーとパリに暮らす。34年、チェコにおけるシュルレアリストグループの結成に参加。47年、夫の死を契機にパリ移住。80年同地にて没。ちなみにトワイヤン(Toyen)という名は、フランス語で「市民」を意味のある“citoyen”という単語に由来するという。

■チェコのシュルレアリスム

 トワイヤンの作品について語る前に、まずはチェコにおけるシュルレアリスム運動について解説しておかなければならない。

 チェコといってまず思い浮かべるのは、その辛く苦しい歴史だろう。20世紀のチェコは、ナチズムやスターリニズムに長らく抑圧されてきた。そんな国のシュルレアリストたちも、当然この状況に巻き込まれた。

 結果、インドリッヒ・シュティルスキー(トワイヤンの夫)やカレル・タイゲなど、チェコシュルレアリスムの創始者たちは政治的闘争のなかでことごとく死亡。シュルレアリストたちは潜伏活動を余儀なくされ、ヤン・シュヴァンクマイエルが登場するまでは、日の目を見ない状況がつづくことになった。

 そのようななか、トワイヤンは夫の死後、パリへ移住しアンドレ・ブルトンらと行動をともにすることで、より一層シュルレアリスムに傾倒していったのだ。では、このトワイヤンはどのような作品を創作し、そこにいかなる意味を込めたのか?

見ているだけで鬱になる絵 ― “不気味な水平線”を追い求めたトワイヤンの根暗すぎる世界のページです。などの最新ニュースは知的好奇心を刺激するニュースを配信するTOCANAで