「精神病患者は魂のない動物」18世紀の劣悪すぎる精神病院を描いた映画とは?

――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

「精神病患者は魂のない動物」18世紀の劣悪すぎる精神病院を描いた映画とは?の画像1※イメージ画像:『恐怖の精神病院』(IVC,Ltd.)

『恐怖の精神病院』
1946年・アメリカ
監督/マーク・ロブソン
出演/ボリス・カーロフ、アンナ・リーほか

 精神病院を舞台とした映画には、サミュエル・フラー脚本・監督作品『ショック集団』(63年・米)や、岡本喜八監督の『殺人狂時代』(67年・東宝)といったカルト人気作がある。そして一般的に代表作といえば、ジャック・ニコルソン主演の『カッコーの巣の上で』(75年・米)であることに異論はないだろう。刑務所での強制労働を逃れようと精神異常を装った男が、患者の人権を勝ち取ろうとする内容の同作品は、第48回アカデミー賞の各賞を総なめにした。その原作小説の元ネタといわれる作品が、元祖『キング・コング』(33年)で有名なRKOラジオ・ピクチャーが製作した『恐怖の精神病院』だ。

 この作品の原題は『ベドラム』。これは当時のロンドンに実在した世界最古の精神病院で、劣悪な環境で悪名高かった聖メリー・ベツレヘム精神病院の通称(現・ベスレム王立病院)だ。チャップリンの実母も入院していたという。主役のボリス・カーロフは、1931年に『フランケンシュタイン』で人造人間を演じて以降、その顔・姿がスタンダードとして現在に引き継がれている当代きっての怪奇スターだ。カーロフにとってこの作品は、「素顔の役者」としての挑戦でもあった。

 舞台は産業革命が始まって間もない1761年のロンドン。ベツレヘム精神病院の委員を兼ねる中年太りのモーティマ卿には、話し相手として常にネル(23歳)を侍らせていた。孤児だったネルは幼い時に卿に引き取られたのだが、シムズ院長(ボリス・カーロフ)に愛人と勘違いされご立腹。そこで卿は気分転換に「患者は笑えるぞ。病院を見学してこい」とネルに不謹慎なアトラクションを勧める。高飛車で凛とした女性ネルを演じたアンナ・リーは、のちに『サウンド・オブ・ミュージック』(65年)にも出演する当時の人気女優だ。

 病棟の入り口で、シムズはネルから案内料を徴収する。実際に当院では見物客から入場料を取り、患者を見世物どころか棒で突いて興奮させて笑い者にしていたという。ネルは病棟に入ると、目の前に広がる光景に唖然とする。不潔な広間にたむろする大勢の患者達が呻き声を上げていたのだ。

 鳥を捕まえようと1日中捕獲用の紐を結んだり解いたりしている男。常に獣のように四つん這いになっている男。壁を背に立ち、一心に空を見つめ続ける美形の若い女。また、凶暴な患者は檻に鎖で繋がれ監禁され、その他はこの広間で夜は1畳分ほどのスペースにワラを敷いて寝かされている。

 シムズはネルに「我々は人間界で、彼らは魂のない動物の世界。犬は打って躾ける。豚は豚小屋に」と説明する。

 義憤に駆られたネルは何かとシムズに食ってかかり、患者の待遇改善を各方面に訴える。だが、シムズはこれを疎ましく思い、卿や医師団を言葉巧みに丸め込み、ネルを異常者と診断して精神病院に強制入院させてしまう。

 これを聞きつけたネルに好意を持つ石工のハニーは、病院に駆けつけて面会を拒むシムズの目を盗み、格子越しにネルと会う。「シムズと戦う」と勇ましいネルに、ハニーは先が鋭利な商売道具のコテを渡す。

 ネルは、口は悪いが慈善の精神だけは人一倍強く、自分では何もできない患者のベッドメイクや食事、洗髪などを献身的に行う。やがて、そんなネルを多くの患者が慕うようになった。だがネルのコテが何者かによって盗まれる…。ここ、思いもよらない重要なフラグで、DVDで見る予定の人は以後ネタバレ注意!

 ある日シムズは、「治療してあげよう」と、ネルに人間を狂わせる薬を投与するため無理やり連れて行こうとした。すると周囲の患者達がドッと集まってきて、ネルを助けようとシムズを取り押さえる。ネルはこの時にシムズから鍵を奪い取り脱出に成功、ハニーの元に走る。これをきっかけに患者たちの反乱が起こった。

 弁護士だった患者はエキサイトして「私は裁判官だ。おまえを裁く!」と叫ぶ。患者たちはシムズを取り囲み、今までの鬱憤を晴らすようにドツキ回し「八つ裂きだ!」と怒号が飛び交う。シムズは観念し「この地位と権限を失いたくなかった。やっと手に入れた小さな私の世界」と本音を吐きだした。すると意外にも元弁護士は「この男の言っていることは正常だ」とジャッジしてシムズを開放する(ええっ?)。

「何だか知らないが助かった」とシムズはその場を離れ、病棟の外へ向かう。だが安心しきったシムズは、裁判に参加せずいつもどおり壁を背に立つ美女の前を通り過ぎようとしたその時、突然彼女が手を振り上げる。その手にはコテが! 壁際の美女は無表情のままシムズの背中をグサッ!

 このドンデン返しに元弁護士も「これが罰だ」と判決を覆す。虫の息のシムズは改装中の壁の中に、患者らによって生きたまま塗り込まれてしまう。このクライマックスは一級のホラーだ!

『恐怖の精神病院』をプロデュースしたヴァル・リュートンは、第二次世界大戦中に活躍したため、敵性国の映画が上映禁止だった日本ではほとんど知られていなかった。1942年、RKOの映画プロデューサーに就いたリュートンは、それまでのドラキュラ、フランケンシュタインなどの怪物キャラに重点を置いたホラーから一転、特撮や特殊メークを極力使わず、立ち込める霧、ざわめく木々の梢といった描写で凶兆を表現し、恐怖感を募らせる手法を確立した。

『恐怖の精神病院』以前の1942年から1945年にかけてリュートンが製作した『キャット・ピープル』、『私はゾンビと歩いた!』、『ナチスに挑んだ女』、『レオパルドマン』、『キャット・ピープルの呪い』、『死体を売る男』、『吸血鬼ボボラカ』も併せた7作品は、日本では一部のマニアの間で評価が高い。惜しむらくは、リュートンは心臓発作で46歳という若さで早死にしたことだ。

■天野ミチヒロ
1960年東京出身。UMA(未確認生物)研究家。キングギドラやガラモンなどをこよなく愛す昭和怪獣マニア。趣味は、怪獣フィギュアと絶滅映像作品の収集。総合格闘技道場「ファイト ネス」所属。著書に『放送禁止映像大全』(文春文庫)、『未確認生物学!』(メディアファクトリー)、『本当にいる世界の未知生物 (UMA)案内』(笠倉出版)など。新刊に、『蘇る封印映像』(宝島社)がある。
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