なぜ、せむし男は消えたのか? ― 絶滅した『せむし男映画』の世界【前編】

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――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・天野ミチヒロが、ツッコミどころ満載の封印映画をメッタ斬り!

『怪談 せむし男』
1965年・東映
監督/佐藤肇
脚本/高岩肇
出演/西村晃、楠郁子、北村和夫ほか

 国内外を問わず、かつて怪奇映画には「せむし男」というキャラクターが頻繁に登場していた。もちろんモトネタは、『レ・ミゼラブル』で有名なヴィクトル・ユーゴー原作『ノートルダムのせむし男』の主人公・カジモドだ。だがホラーにおけるせむし男はユーゴーの文芸的テーマとは異なり、マッドサイエンシストやドラキュラの下僕、あるいは異形のモンスターとして扱われることが多い。

 日本では1965年8月に夏休み納涼映画として『怪談せむし男』が公開されたのだが、この時、せむし男に扮したのは、なんとテレビ版『水戸黄門』の二代目光圀公を演じた西村晃。それが、この作品を一層カルトな存在にしている。

■『怪談せむし男』あらすじ

 会社社長の宗方信一は、別荘で愛人の秘書が変死したショックにより発狂し、父親の圭介(北村和夫)が経営する精神病院に入院。その後、死亡した。だが社長夫人の芳江(楠侑子)が遺体安置所に行くと、なぜか棺の中の夫は両目を見開き白菊をくわえている。そのまま蓋を閉じられ火葬される遺体(そんなバカな)。その時、いきなり炎の中から遺体が奇声を上げて起き上がりタイトルが浮かび上がる。東映らしいケレン味たっぷりな幕開けだ。

 夫の会社は倒産し、愛人と情事をするために買った別荘が、皮肉にも唯一の財産として芳江に残された。芳江が別荘を訪れると、そこはまるで幽霊屋敷のような佇まいの洋館で、元の持ち主・富永男爵に仕えていたせむし男(西村晃)が、そのまま召し使いを務めていた。館内で芳江は突如カラスに襲われるが、それをせむし男が素手で捕まえ瞬殺。不自由そうな体にしては、あり得ない身体能力だ。

 案内された部屋で芳江が休んでいると、突然床に血が滲み、ギシギシと部屋全体が軋む。さらに「うう、わお……」と不気味な男の呻き声。その部屋は、夫の愛人が謎の死を遂げた場所だった。そこへ息子の財産を狙う宗方圭介、助手の山下、看護士の和子が訪れる。当初、芳江が話す怪奇現象を信じなかった彼らだが、次第に館から放たれている妖気を感じ始める。圭介と山下は、せむし男から館に隠された秘密を聞き出そうと激しく詰問するが、何も答えず耐えるせむし男。激しい追及を止めに入ったのは、優しい和子だった。まさに『ノートルダムのせむし男』におけるヒロイン、エスメラルダだ。

 やがて圭介の娘で山下の恋人の秋子、夫の弁護士、手切れ金の残金を取り立てに来た信一の元愛人の3人も集結し、館の権利についてゴタゴタ揉め始める。その夜、芳江の部屋にメンバーが集まると、テーブルが動き、男の叫び声が聞こえ、外から何者かがドアをダンダンと叩き、ドアがベキッと割れ、シャンデリアが揺れる。ポルターガイストだ。照明が消えると、部屋の中に女の遺体を抱いて高笑いする男の亡霊が出現! これは『ヘルハウス』(73年・英)、『HOUSE』(77年・東宝)、『悪魔の棲む家』(79年・米)などの70年代に流行った「家ホラー」の先駆けだ。

 そこへ法衣を着た霊媒師(鈴木光枝)が訪れ、交霊術を始める。鈴木光枝といえばNHK連ドラの常連で、婆さん役女優としてもお茶の間の顔だけに、なんだか笑える。やがて富永男爵が憑依したせむし男は、かつて屋敷で起きた事件を語り始める。

 戦時中に男爵は、突然侵入してきた陸軍大尉に狂っていた妻を強姦された挙句、天井に鉄格子の扉がある地下牢に頭から落とされる。大佐はその扉の上で、男爵が見上げる中、さらに妻を犯した。乱暴されながらケタケタと笑っている妻を、泣きながら眺めるだけの男爵の絶望的な無念が怨念と化し、彼を悪霊にしたのだ。

 大佐は性欲を満たすと、妻を銃で撃ち軍刀でトドメを刺す。男爵は最後の力を振り絞り、バイクで走り去る大佐を念力で樹木に激突させて復讐する(超能力あるの?)。そのまま地下牢で死んだ男爵は地縛霊となり、信一と召し使いに乗り移り、屋敷に入った者を皆殺しにしていたのだ。

 館に集まった人間は次々に殺されていき、芳江はドサクサに紛れて犯そうとした圭介を殺し、彼女もせむし男に殺される。そしてひとりだけ生き残った和子は、夢遊病者のように館の外へ歩き出す。男爵の霊はせむし男から和子に乗り移ったらしい。和子は薪を組み上げて燃え盛る炎の中に入り、男爵の声で笑いながら死んでいく(等身大の写真パネルを燃やす東映の十八番)。せむし男は悲しい顔で炎を見つめる……。

 監督は、クエンティン・タランティーノも絶賛した『吸血鬼ゴケミドロ』(68年・松竹)を撮った佐藤肇で、水木しげる原作の実写化『悪魔くん』(66~67年)や千葉真一がブレイクする『キイハンター』(68~72年)などテレビでも大活躍した。その定評ある奇抜な恐怖演出で、ヨーロッパのゴシック・ホラー調に仕上げた作品だった。

 だが、せむし男をタイトルに入れた作品は、この作品を最後に製作されなくなった。せむし男のコブのような背中は「脊柱後湾症」という病気(原因に先天性、老人性などあり)のため、罹患者を怪物視する差別表現としてメディアから消えていったのだ。マスコミの言い換えマニュアルで「亀背(きはい)」となっているのを見たが、それもどうかと……。ここで、日本で公開された「せむし男」をメインとした劇場公開映画を挙げてみよう。

※注:「せむし」の表記は公開時で異なる。

1920年『延命院の傴僂男』……詳細不明の無声映画。
1954年『投げ唄左門二番手柄 釣天井の佝僂男』(大映)……江戸の捕り物。
1957年『南蠻寺の佝僂男』(大映)……酒嫌いになる薬を女房に飲まされた男が怪人に変身する怪奇喜劇。
1965年『怪談せむし男』(東映)

 これら全てがソフト化されておらず、テレビでもお目にかかったことがない。まともな形で鑑賞できたのは、2007年にシネマヴェーラ渋谷で企画された『妄執、異形の人々II』での『怪談せむし男』のみだと記憶する。友人である映画評論家・特撮ライターの木全公彦氏が持ち込んだ企画により、あの『怪猫トルコ風呂』(以前、TOCANAで紹介)とともにニュープリント上映が実現したのだ(この経緯は、氏のwebサイト「映画の國」に詳しい)。

 次回「せむし男映画の世界」【後編】では、海外の作品と併せて、日本と欧米におけるせむし男に対するメディアの温度差なども紹介してみたい。

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