
薄井一議写真集『Showa88/昭和88年』『Showa92/昭和92年』
木刀を手にこちらを睨みつけるスキンヘッドのヤクザ。うらぶれた館の階段で抱き合うカップル…。見世物小屋では赤い衣をまとった黒髪の女が蛇の胴体を舐め、舞妓は客の足の指をしゃぶる。太った初老の男が三線を爪弾くその腕には刺青が。イタコの老婆は見えない眼を虚空に漂わせ、二頭の闘犬は剥き出しの殺意を放つ。遊郭の入り口には一輪の赤い花が咲き、下品なほどに煌びやかなホストクラブの階段には「愛」の文字。

薄井一議写真集『Showa88/昭和88年』
これらはすべて写真家・薄井一議さんの写真集『Showa88/昭和88年』(以下、『Showa88』)、『Showa92/昭和92年』(以下、『Showa92』)に収録されたイメージだ。しかし、薄井さんが写す世界は、古き良き昭和という時代へのよくありがちなノスタルジー趣味とは違う。60年代の劇画チックなエレメントに薄いピンクの皮膜を重ねたようなイメージの連なりは、不穏な空気感を漂わせながら、まるで白昼夢の中に迷い込んだような印象を抱かせる。