【3.11特集】雲仙・普賢岳噴火による津波被害を題材にした幻の日米合作映画『大津波』の内容と撮影風景を天野ミチヒロが語る

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 さて、物語は災害から10年後に飛ぶ。成長したトオルを演じたのは伊丹十三。ユキオはロカビリー歌手のミッキー・カーチス。そしてセツが笹るみ子さんだ。るみ子さんのアルバムに、ロケ地は長崎県の南高来群小浜(みなみこうらいぐんおばま)と記されている。南高来郡は現在の雲仙市・島原市・南島原市だ。小浜はパール・バックの希望で選ばれ、本人も長期滞在して撮影を見学した。るみ子さんは小浜で40日以上過ごしたが、毎日が退屈で1軒だけあるよろず屋でお菓子や雑誌を買うくらいしか楽しみがなかったという。

 また東宝のロケにしては小規模で、普通なら何人もいる助監督が日本側とアメリカ側の2人だけ。タッド・ダニエルスキー監督は本作が初めての劇場用作品で、コンテも切らずその場その場で絵を決めるので、俳優やスクリプター(記録係)が困惑していたという。るみ子さんは「監督に才能が感じられなかったわ」と述懐していた。

 さらに旅館では毎晩、「恐怖の時間」と恐れられた英語の発音レッスンが行われた。台本は全部英語で書かれていたのだ。早川雪洲、中村哲、ヘンリー大川、ジュディ・オング、伊丹十三、ミッキー・カーチスらは英語ペラペラの俳優としてキャスティングされたが、るみ子さんは台詞を覚えるのに大変な苦労をしたという。しかも相手は監督ではなく、連れてきた夫人が椅子にふんぞり返ってブドウの種をプップッと飛ばしながらのチェック。一生懸命台詞を覚えたるみ子さんだが、ある日撮影現場で夫人が「ルミコ、台詞変ワッタカラ」。ショックを受けたるみ子さんは、ロケ地に来ていた以前共演した大女優・山口淑子(李香蘭)から、「私も下積み時代はね……」と励まされたそうだ。

 頑張って監督の要求に応えていたるみ子さんだが、1つだけ抵抗したことがある。砂浜を走るシーンで、浴衣の下に穿いた赤い襦袢(じゅばん)を、裾をまくって見せながら走れと言う監督に、るみ子さんは「日本人は浴衣の下に襦袢は穿きません」と直訴して止めさせ、外国の誤った日本人観の流出を防いたのだ。余談だが、るみ子さんが設楽幸嗣から聞いた話によれば、乱暴される女の子役を演じた人物がそれを苦にし、撮影後におかしくなってしまったという。私が観たフィルムにそのシーンはなかったので、放送上不適切とカットされたのだろうか。

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