【仏大統領選】なぜフリーメイソンはルペンを嫌うのか? フランス・メイソンと政治の深い関わりを比較文化史家が語る!

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――フリーメイソンだから閣僚に選ばれるということはないのでしょうか?

竹下 社会党員にフリーメイソンが多いので、社会党政権だと選ばれた大臣が結果的にフリーメイソンだったということ以上の意味はありません。フリーメイソンは左派と中道の人が多いので、保守主義だったサルコジ大統領のときはフリーメイソンであっても公表しなかったといわれています。そういえば、グラントリアンのグランドマスターのクリストフ・アバスという人が3月22日にロッジを出たときに女性に襲撃されたと報じられましたね。金づちで頭を殴られそうになって腕でかばったので負傷したそうです。襲った人は精神を病んでいるんでしょうが、反ユダヤ主義の人だったんです。その人はユダヤとフリーメイソンの陰謀論を信じていたんですね。フリーメイソンが未だに陰謀論者の攻撃の対象になりえることがわかりますね。政治との関わりもあるし、昔からの陰謀論的な問題とあって、何重にもフリーメイソンを取り巻いているという現実がフランスにもあるわけですね。


――グラントリアンが親イスラエルだから襲われたわけではないんですね?

竹下 そうじゃないんですが、グラントリアンにユダヤ人が多いのは事実です。方針がリベラルなのでユダヤ人が多いんですね。ただ、フランスのユダヤ人には2種類ありまして、もともとヨーロッパ化していて、割合裕福なユダヤ人ですね。それから旧植民地の北アフリカから来たユダヤ人ですね。金持ちのユダヤ人はそういう貧しいユダヤ人はシオニズムでイスラエルに行ってほしいと思っているんです。そういう二重構造がユダヤ人にもあります。グラントリアンに入っているのはブルジョワの方のユダヤ人でしょう。フランスは伝統的にいわゆるロビー活動というものがないので、ユダヤ系のロビー活動の場の一端をフリーメイスンが担っているのかもしれません。


■日本にもフランス系のフリーメイソンがある!

――日本にもフランス系のフリーメイソンがあるようですね。

竹下 2008年に東京で最初のフランス系ロッジが創設されました。これはグラントリアンではなく、「人権」ロッジと呼ばれる完全な男女平等共生ロッジです。人種・民族・思想・宗教を問わず、象徴的な典礼によって人類の完成と栄光の神殿を築くとうたっているところです。「人権」ロッジは理神論となったグラントリアンをさらに世俗化したもので、人間と社会の改良と真実を希求する普遍的友愛組織であるとしています。
「人権」ロッジはマリア・ドゥレスムという女性が1893年にパリに創設した男女共同のアトリエが発祥で、ドゥレスムは1882年に女性の入会を認めていたパリ郊外のスコットランド・シンボリック・グランドロッジでイニシエーションを受けます。

 1894年に世を去った彼女の遺志を継ぎ、1901年に男女混合の「人権」インターナショナル・フリーメイスンが非営利団体として認可され、1920年にパリで開かれた世界大会で、フランスと植民地、アメリカ、オランダ、イタリア、イギリス、スイスのロッジが集まってフリーメイソンの憲章を批准しました。典礼としては33のグレードを持つスコットランド古式典礼を採用しており、フェミニズム運動の一環をなしているのが特徴ですね。この「人権」ロッジが発展して日本にまで到達したわけです。


――日本グランドロッジは最近オープンハウスを実施したりして、活動を広く理解してもらおうとしているようですが、「人権」ロッジの方はホームページもフランス語だけですし、日本人にはなかなか「見えにくい」存在ですね。今後、日本でどう展開していくのかに注目したいと思います。では最後に今後のフリーメイスンに期待することはありますか?

竹下 フリーメイソンはもともと信教の違いによる政治的社会的なパワーゲームを超越したいという「普遍主義」であったため、その内部でどのような分裂を繰り返しても、最初の「普遍主義」を視野に入れ、互いの上下関係や排他主義を乗り越えてきました。ロッジ同士の間にヒエラルキーがなく、参加するかどうかの意思も、33にものぼる「位階」をのぼっていくかどうかも自由意思に基づいている点で、「普遍主義」の理想から外れぬまま、共同体主義を満足させることができるシステムになっている。

 けれども結局のところ、フリーメイソンも試行錯誤を重ね、権力や欲望の誘惑に負けたり、時代の波に翻弄されたりしながら、生き方を模索しています。規模は違っても国家や宗教組織や個人と同じ運命、同じ試練に向き合っているんですね。フランス・グランドロッジの憲章には「真実と正義の探求において、フリーメイソンはいかなる拘束も受けず、いかなる制限も受けない」と書いてあります。少なくとも、その心意気は維持していってほしいと思っています。理想とは、実現することで消えるものではなく、いつも追うべき求心力のあるものですからね。

 日本社会はもともとは共同体を重視する、アングロ・サクソン的な共同体主義に近いものです。明治維新以来、サバイバルのために一神教モデルの国家神道を立ち上げて富国強兵を成功させましたが、全体主義に陥りました。戦後はアメリカ・モデル一辺倒だったので、また共同体主義に立ち戻った部分があります。フリーメイスンもアメリカ・モデルの閉鎖的な社交の場として認識されるだけでは、そのルーツにあったはずの普遍主義は伝わりません。それどころか二十世紀に捏造された陰謀論さえリサイクルされています。本来キリスト教や共産主義も、「共通の理想」を掲げる平等でインターナショナルな普遍主義の場を提供してくれるものでした。現在、それらもみな「拝金主義」の論理に飲み込まれた時代に、フリーメイソンの発祥における自由と独立の気概は十分今日的意味を持っていると思います。
(聞き手・文 高橋聖貴)

竹下節子 (タケシタセツコ) 

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比較文化史家・バロック音楽演奏者。東京大学大学院比較文学比較文化修士課程修了。同博士課程、パリ大学比較文学博士課程を経て、高等研究所でカトリック史、エゾテリズム史を修める。フランス在住。 主な著書に、『聖母マリア――<異端>から<女王>へ』『知の教科書 キリスト教』『フリーメイスン――もうひとつの現代史』(講談社選書メチエ)、『ユダ――烙印された負の符号の心性史』『無神論――二千年の混沌と相克を超えて』(中央公論新社)他多数。
公式サイト http://www.setukotakeshita.com/

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