
弓削神宮(熊本県熊本市)
人はみな心に弱い部分を抱えており、さまざまな願い事をするため神社仏閣に足を運ぶ。無病息災や子孫繁栄――しかし、この世には「悪い男と別れたい」「幼くして亡くなった子を寂しがらせたくない」などの極めてパーソナルかつ深い闇を抱えた願い事も渦巻く。
そんな願いを成就させるために必要な行為こそ「奉納」だ。食べ物や酒、動物などの生贄、絵馬、はたまた踊りや神輿も、広義には奉納に含まれる。そんな“奉納物=呪物(じゅぶつ)”だけに的を絞り、日本各地を巡り歩いた書籍『奉納百景』(駒草出版)が発売された。著者である小嶋独観(こじま・どっかん)氏に、おどろおどろしくも哀切なる奉納の世界について語ってもらった。
■なぜ「奉納」に魅了されるのか?
――奉納というテーマのみを扱った本書は、とてつもない労作だと思います。津々浦々の神社仏閣などを巡るために、まずどれくらいの期間がかかったのでしょうか? また小嶋さんご自身の経歴も教えて下さい。
小嶋独観(以下、小嶋) この本で扱っているのは、だいたい15年分の記録です。私はもともとお寺や神社を周るのが好きで、全国の変わった寺社などを集めたウェブサイト『珍寺大道場』(http://chindera.com/)も20年近く運営しています。いろいろなところを周っているうちに、神社仏閣だけでなく奉納されている物も気になってきました。
具体的なキッカケは、小松沢観音(山形県)の「ムカサリ絵馬」ですね。これは子どもを失った親が、絵馬や(生前の子どもの)写真を使って“架空の結婚式”を行って、死者を弔う習俗です。現地には、壁中にお札や写真、絵馬が飾られています。
――そういった経緯を聞くと、寒気を覚えるような写真ですね。