性的虐待、肉親への憎悪…母娘の念で9人死んだ実話怪談! 川奈まり子の「呪殺ダイアリー」後編
作家・川奈まり子の連載「情ノ奇譚」――恨み、妬み、嫉妬、性愛、恋慕…これまで取材した“実話怪談”の中から霊界と現世の間で渦巻く情念にまつわるエピソードを紹介する。
【十五】呪殺ダイアリー(後編)
――継父が急死してからも、母の恵子さんに対する態度は和らがなかった。むしろ今までよりもはっきりと3つ上の姉をえこひいきして、恵子さんには辛く当たるようになった。
幼稚園や保育園にも相変わらず通わせてもらえず、衣食の世話もおろそかにされ、よくお腹を空かせていた。
古びてガタがきていてもそれなりに豪壮な屋敷の中で、薄汚れた格好でひもじい思いをしている、ひとりぼっちの女の子。それが3歳から6歳までの恵子さんだった。
継父が生きているうちは、母に邪険にされるのは、継父のせいだろうと思っていた。しかし、そうではなかった。「暗い子」「不細工」「出来損ない」「気持ち悪い子」と罵ってくるときの母の顔を見れば、わかる。
――お母さんは私のことが嫌いなんだ。
グリム童話のヘンゼルとグレーテルの話は、皆さんご存知だと思う。世界各国で今読まれている普及版では、ヘンゼルとグレーテルを森へ捨てた両親のうち母親は、子どもらと血が繋がっていない継母という設定だ。
しかし、心理学者・河合隼雄の『昔話の深層 ユング心理学とグリム童話』によれば、1840年に決定版が編纂・発行される前は、この母親は実母ということになっていたそうだ。そればかりでなく、グリム兄弟は、白雪姫の女王――正体は魔女――も継母ではなく実の母親であるとして、当初は書いていたのだという。
母性を無条件に善いものだとしたいと願うなら、そして善なる母性の存在をなんとなく信じているであろう多くの読者に違和感なく受け容れてもらいたいと思うなら、子殺しを企む母親役は実母であってはならなかったのだろう。
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