佐川一政映画『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』の感想/石丸元章寄稿

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7月12日全国ロードショー
映画『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』!

★第74回ヴェネチア国際映画祭 オリゾンティ部門審査員特別賞受賞作品★

<解説>
論争必至!各国の映画祭で途中退場者続出!日本のすべての配給会社が買付けを拒否! 1981年、フランス・パリで起きた前代未聞の猟奇殺人事件に全世界が震えた。一人の日本人が、愛した女性を射殺し、彼女のすべてを食べつくした。その男の名は、佐川一政。事件から38年、佐川はカメラの前で何を語り、何を見せるのか…!?全世界にスキャンダラスでセンセーショナルな旋風を巻き起こした映画史上空前の問題作が、この夏、遂に奇跡の日本解禁!

 この度、作家の石丸元章氏が『カニバ』のレビューを寄稿した。

■作家・石丸元章氏による映画『カニバ』特別寄稿!

 子供からお年寄りまで年齢層に関係なく、ジェンダーに関係なく、捜査機関から犯罪心理学者、単なる野次馬、テレビレポーター、文学者、評論家まで――。あらゆる日本人を震撼させた“佐川一政” が、フランス映画になって帰ってきた。

 誤解されないために最初に言うが、ここからは、被害者や事件についてではなく、この『カニバ』という映画、そして“ 映画の中の佐川一政” について書かせてもらう。

 1981年の事件発生から、長い月日が経っている。その間、佐川くんは週刊誌やワイドショーのネタから始まって、文学、サブカル、エロ、フェティッシュ雑誌、イベントやサイン会の開催、絵の個展……、果ては本人作によるドキュメントコミック『まんがサガワさん』の上梓に至るまで、徹底的に日本社会で消費され、露出され、使い尽くされ、近年に至ってはメディアコンテンツとしての力をほぼ失いかけていた。

 ところが! である。

聞くところによると佐川一政は、事件から30年以上が経過した現在でも、未だフランスで、「伝説のカニバ事件を起こした日本人」として、ある種の猟奇カルトスター的存在であるという。

 しかも、これも聞くところによるとだが、彼の起こした事件は――日本からの留学生がオランダからの留学生を食べてしまったという、フランス市民的な視線では、外国人留学生×外国人留学生の事件であり、いまいち加害者への処罰感情が希薄で、それに反比例するように、事件の特殊性への興味=佐川一政への好奇の視線は時代を超えて、世代を超えて、なお絶えることなく爛々と生き続けているのだという。

 そんなフランスのカルトカルチャー事情を背景に―― 数人の撮影クルーがカメラを持って海外から日本へ乗り込んできた。そして、東京のはずれに存命する伝説の猟奇犯佐川一政の現在を撮影した、というのが本作品だ。

 オシャレな映画だ。という言葉が軽ければ、とってもディレッタントでスタイルな映画と言おうか。

 これまで佐川一政の存在は、日本の中では、サブカルチャー的なある種の悪趣味の中で描かれてきた。そして日本人のわれわれは、進んでその悪趣味を“ 愉しむ”ことをしてきたのだけれども、映画『カニバ』の中に露骨なそれはない。

 登場人物は、本人と弟と、現在寝たきり状態の佐川一政の介護をするコスプレの女性の3人だけ。佐川一政は数年前に脳卒中を患い、今はほぼ寝たきりだ。その佐川くんは、回想と追憶と脳梗塞によって、ますます境界があやふやになっている日常の中で、常にとても文學的な存在として映画の中に登場する。

 不自由な体の佐川一政は、あやふやな霧のようなヴィジュアルの中で放つ、異様に文藝的なオーラによって軽妄に陥ることをまぬがれてスタイリッシュにフェティッシュに――この文法の乱れは、佐川の重力によるものだ。

 佐川一政の弟は、本作がメディアデビューとなるようだ。腕を鉄条網でぐるぐる巻きにして、血を垂らしたい……、と奮闘して束ねた包丁を突き刺すシーンなどは、宿命の磔刑を暗示しているようでもあって――でも、面倒くさいことをすべて省略しておしゃれフェティッシュにまとめられてる……と自分は受け止めた。

 佐川一政は、徹頭徹尾文學的な存在だ。「カニバリズムというのは、好きな人の唇を舐めたいような、その延長線上にあると思う」というカメラへの語りかけなどは、ゾッとするような表現で、佐川ならではの練り込まれた文藝表現と言えるだろう。

 繰り返すようだが、佐川一政は脳梗塞でもう死にそうなんですよ。良かった、とは言わないが、映画の中の病人としての姿は、佐川一政にすごく似合っていた。老齢に入った佐川が、元気で健康な老人でなくて良かった。脳を障害し、あやふやな日常認知の中を不自由な人間として生きる人になっていて、それこそが彼の人生にふさわしいハッピーエンドなのだと。映画を見てつくづく、佐川一政はオシャレだなあと思った。

|| 石丸元章(作家)

映画『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』
原題:Caniba 監督・撮影・編集・製作:ヴェレナ・パラヴェル、ルーシァン・キャステーヌ=テイラー  出演:佐川一政、佐川純、里見瑤子
2017年/フランス・アメリカ合作/90分/カラー作品/DCP
R15+/配給:TOCANA ©Norte Productions,S.E.L
★公式サイト:http://caniba-movie.com/ 
★公式Twitter:@ CanibaJP

※佐川一政と「AV共演」女優・里見瑤子のインタビュー記事はコチラ

※『カニバ/パリ人肉事件38年目の真実』関連記事まとめはコチラ

2019年7月12日(金)、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国“トラウマ”ロードショー! &配信も決定!!!!

文=石丸元章

◎石丸元章(いしまる・げんしょう)

1965年8月9日、千葉県生まれ。作家、ライター。高校在学中にライターデビュー、人面犬ブームの仕掛け人。著書に『スピード』『アフター・スピード 留置場→拘置所→裁判所』『平壌ハイ』『神風』(すべて、文春文庫)など多数。近作に『聖パウラ』(東京キララ社「ヴァイナル文學選書 第一弾」)

Twitter: @chemical999

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