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なんてシュールな内容だ！『ゴジラ』の20年前の特撮映画がヤバすぎる！

2022.01.11 10:00

大仏廻国　中京編

　さて大仏は釈尊の御遺骨が埋葬されている霊場に寄ったあと三河地方に入り、知立八橋で少女たちが小太鼓を叩きながら歌って踊る小町踊りを見物したのち常福寺の苅宿の大仏とご対面。こうした名所めぐりの前半から一転、後半は地獄めぐりへと様相が変わる。

　大仏は不幸があった農家へ行き、亡くなった娘の魂を極楽へと導く。その反面、信仰心のない亡者は地獄送りにされ、賽の河原、閻魔大王による地獄裁判、血の池地獄・釜茹で地獄などが描かれる。閻魔大王は、1932年の第一次上海事変で爆弾抱えて敵陣に突っ込んだ3名の英雄・爆弾三勇士を讃え、当時多発していた伊豆大島三原山の自殺者を叱り飛ばす。日本の中国大陸進出など時事ネタを取り入れた作劇だが、爆弾三勇士の件は検閲する政府内務省へのゴマすり？　やがて大仏は仏教画でよく見る５色の花弁に飾られた瑞雲に乗り、東京へ向かって空の彼方へ消えていく。

　なんてシュールな内容だ。仏教団体によるPR映画らしいが、トーキー（無声映画）と白黒映画の時代に、オールトーキー（現在の映画と同じ俳優が台詞を話す）で部分的天然色（パートカラー）を使い、着ぐるみとミニチュア建造物で巨大感を出し、スクリーンプロセス（特撮場面が投影されたスクリーンの前で俳優が演技する合成技術）も用いた特撮は、当時としては最先端を行く。撮影スタッフ・俳優もトーキー時代の一流どころが起用されたという。

　当時の新聞広告に「聚楽仏は六十二尺、キング・コングは六十尺」というキャッチコピーが見つかる。前年の1933年に公開された世界初の怪獣映画『キング・コング』に世界中が衝撃を受け、その余韻がまだ覚めやらない頃だ。封切り初日の9月15日は、名古屋の世界館では開場前から行列ができ満員御礼。しかしマスコミは概ね「『キング・コング』に比べて幼稚、低俗」といった辛辣な評価を与えていたが、挑戦した意気込みだけは認めていたようだ。

　気になるのはラスト、大仏が東京へ向かうという件。おそらく続編の『大仏廻国　東京編』が予定されていたのだろうが、残念ながら制作されなかった。

　さて驚いたことに、この作品をCGでリメイクした『大仏廻国　The Great Buddha Arrival』が2018年に公開されている。監督は今年公開された『ネズラ1964』（制作中止になった大映『大群獣ネズラ』のメイキング映画）の横川寛人。スペシャル・サンクスに枝正監督の孫・佛原和義、ストーリーテラーに『ゴジラ』の主役・宝田明。ほか螢雪次郎、久保明、小林夕岐子など特撮作品の常連。ヒロインにNMB48の岩田桃夏（中京編ならSKE48なのだが）、大槻義彦教授とUFO研究家・韮澤潤一郎まで出てくる豪華（？）キャスト。アンバサダーに仏像趣味で有名なみうらじゅんというのもツボを押さえている。作品のDVDは製作資金を募ったクラウドファンディングのリターン品として頒布されたようだが、一般発売もして欲しいものだ。リメイクまで幻の作品となってしまわないように……。