【死刑囚の実像】被害者遺族からも愛される不思議な殺人者 ― 宮崎家族3人殺害事件
■被害者遺族のほうが「謝りたい」
きっかけは、些細なことだった。長男の初節句を福岡と宮崎のどちらでやるかをめぐり、義母が実家の両親と対立。感情が高ぶった義母は、奥本の頭を何度も殴りつけてきた。
「部落に帰れ。これだから部落の人間は」「離婚したければ離婚しなさい。慰謝料ガッツリ取ってやる」
殴られながらそう罵倒され、奥本はとうとう緊張の糸が切れてしまう。そして当初は自殺も考えたが、最終的に下した決断は家族3人を全員殺害することだった。なぜそれが解決になると思えたのかは奥本自身もよくわからない。心理鑑定によると、当時の奥本は精神的に疲弊し、視野狭窄、意識狭窄の状態に追い込まれていたという。そして、“あの時”を迎えた――。
「心理鑑定の鑑定書は読みましたが、鑑定書の通りだと思いました。自分は元々視野などが狭かったと思いますが、“あの時”はいつも以上に視野狭窄になっていたと思います。すべての原因は自分にありました」
面会の際、奥本はそう振り返ったが、この事件の原因が奥本だけにあるとは思えなかった人物が被害者遺族の中にいた。奥本の妻の弟であるYだ。Yは母(奥本の義母)の性格や日頃の言動を当然よく知っている。上告審段階になって奥本と面会し、最高裁に「裁判のやり直し」を求める上申書を提出したYは、その中でこう書いていた。
〈母のほうが悪かった部分については、自分のほうから被告奥本に謝りたいという思いもあったくらいです〉
しかし、奥本の上告を棄却した最高裁のわずか3枚の判決文では、このYの上申書の存在に何一つ触れられていなかった。
■「最後までしぶとく生きる」
実際に会ってみると、奥本はいかにも田舎の朴訥な青年という雰囲気の人物だった。獄中では、被害者たちの供養のため、写経や読経を日課に。また、被害者遺族への弁償資金をつくるため、支援者らの協力を得てポストカードを製作しており、そのための絵を毎日描いているとのことだった。
「絵は、被害者3人のことを思いながら描いています。とくに妻と息子のことを想って、心の琴線に触れたものを2人に重ねながら描いています」
そう語っていた奥本は最高裁に上告を棄却された直後には、「この結果(死刑)を潔く受け入れて死のう」とも思ったが、最終的には再審の請求や恩赦の出願をし、「生き続けること」に決めたという。死刑確定後、面会や手紙のやりとりはできなくなったが、最後にくれた手紙には、その真意がこう綴られていた。
〈私が今、考えていること(再審や恩赦)はまったく潔くありませんが、間違っていないと思っています。私は、被害者3人の命をある日突然奪ったのですから、私が死ぬ心の準備をするのはおかしいです。私も死ぬ時は、死ぬつもりがまったくない状態で死ぬべきです。最後までしぶとく生きるつもりです〉
奥本はこれからどんな人生を歩むのか。その近況は「奥本章寛さんと被害者家族を支える会」のホームページで適時報告されている。
(取材・文・写真=片岡健)
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