現実と夢が交差するレストラン…叔父が最期に託したメッセージと不思議な夢
現役の体育教師にしてありがながら、ベーシスト、そして怪談師の一面もあわせもつ、うえまつそうの新連載「島流し奇譚」。この連載では現役教師ならではの他にはない実話怪談を紹介する。第15回目となる今回は、「不思議な夢」にまつわる体験談。
年齢ではひとつ下の友人マサヒロの実体験。 今から20年ほど前、マサヒロがまだ20代前半の頃、とある日に見た奇妙な夢の話を教えてくれた。
マサヒロには小さい頃、家族の誰かが誕生日を迎えると、いつも決まって行っていたレストランがあった。その日の夢の中でマサヒロはそのレストランの中にいた。
「懐かしいな」と思いながら店内をうろうろしていると、10年以上訪れていないはずなのに内装は当時のまま。まるで時間が止まったかのようだった。しかし、周囲を見回すと、何かがおかしい。状況が妙に違和感だらけで、不思議な気持ちになったという。
小さい頃にしか来たことがないはずのレストランに、大人の自分がいる。いつ訪れても賑わっていたあのレストランが、今日はガラガラで、お客さんはほとんどいない。忙しく働いていた大勢のスタッフもいなくなり、ひとりのスタッフが暇そうにツカツカと歩き回るだけ。その奥には女性らしき人がひとりポツンと座っているのがぼんやりと見えるだけだ。何とも言えない寂しさがあり物悲しい。しかも窓の外はいつもの景色のいいビルからの眺めではなく、海の中のような薄暗く深い青い風景だったという。
そんな違和感だらけの店内をキョロキョロしていると、ブーン、ピンポーン…自動ドアを開けて誰かが入店して来た。
店内は薄暗く、その人影の顔ははっきりとは見えなかった。しかし、その影がマサヒロの方へ、どんどんどんどんと近づいてきた。そして目の前に現れたのは、いつも親切にしてくれる親戚のケンジおじちゃんだったという。
頼りがいがあって、いつもニコニコと人の良さそうなケンジおじちゃん。しかし、その夢の中では眉間にしわをよせて難しい顔をしながら、椅子をギッと引いてマサヒロの前に座る。
するとテーブルに肘をついてゆっくりと話しかけてきた。
「マサヒロ、いいか良く聞け。ちょっと困ったことになって。私な、ちょうどいま死んだんだよ。本当にすまない。一族で一番頼れるのはお前だから、これからはお前がみんなを守るんだ。わかったな。今までありがとうな。じゃあまたな」
するとスッと立ち上がってケンジおじちゃんは店を出ていったという。
いままでずっとお世話になってきた大好きな人だったので、マサヒロは夢の中で大号泣して叫んでいた。
「おじちゃんありがとう!おじちゃん今まで本当にありがとう!おじちゃん…」
目を覚ますと朝方4時半。夢の中だけじゃなく寝ながら本当に泣いていたようで涙の跡が残っていた。
問題は、さっき夢で見たことが本当なのかどうかだった。ケンジおじちゃんが本当に亡くなったのか確信はなかったが、とにかく親に「こんな夢を見た」と伝えようと思い、2階から両親が寝ている1階へ向かって階段を降りている途中だった。家の電話が鳴り響いた。「こんな朝早くに電話…?」と思いながら受話器を取ると、案の定、ケンジおじちゃんが亡くなったという知らせだった。
トラック運転手をしていたケンジおじちゃんは、海沿いを走っている最中に土砂崩れに巻き込まれてそのままトラックごと海に放り出されて亡くなった、と。
電話を切り、マサヒロは夢のことを親に伝えるのも忘れ、ただ悲しみに暮れていた。やがて母親が起きてきたのを見て、ふと我に返る。マサヒロは涙で震えるのを必死にこらえながら、夢で見たことと電話で聞いた知らせについて話し始めた。
「お母さん…ケンジ…」
「ケンジおじちゃん亡くなったんでしょ」
「うん…いま夢で」
「夢であのレストランに会いに来たんでしょ」
「え?」
母親はなぜか全部知っていたのだ。
「お母さん、なんで知ってるの?」
「あんた夢の中でレストランにいたんでしょ?ケンジおじちゃん亡くなったって知らせに来たんでしょ?お母さん、全部見てたの気づかなかった?」
そう、マサヒロの夢の中で見たスタッフの奥にうっすら見えた座っていた女性――その女性は実は母親だったのだ。
母親はマサヒロが見た夢の光景を、反対側の視点から見ていた。親子がそれぞれの視点で、ひとつの夢を共有していたのだ。
今まで親子でこんな不思議な体験をしたことはなかったという。しかし、ケンジおじちゃんの深い愛情や想いが、親子の夢に現れたのだろうか。亡くなったことはもちろん悲しかったが、最後にこうして夢の中で会いに来てくれたことは、本当に嬉しかったとマサヒロは私に語ってくれた。
皆さんは自分がもし死ぬ時、最後に誰に会いに行きたいですか?そして、何を伝えたいですか?
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