Tape Painting(Box#3)
こうした水口のリアリズムの追求は、細部のみならず、展示空間全体にも行き渡っている。たとえば、階段脇の壁に立てかけられている箱状の物体。これは、《Tape Painting(Box#3)》という作品である。前掲の《Tape Painting(Box#4)》同様、十字に貼られたテープ部分は絵具で描かれたものである。それとともに注目すべきは、箱の立てかけ方だろう。実に確信犯的というか、これはどこからどう見ても、届いたまま放置された配送品くらいにしか見えない。
つまり、「∞」展の空間全体から感じられる現実味は、創作上の技術のみならず、物の置き方など配置上の細かい配慮によっても支えられているのだ。そこには、「無造作の美学」とも呼ぶべき、水口ならではのリアリズムが貫かれている。実際、ギャラリー担当者の話によれば、「まだ搬入中ですか?」と言って引き返そうとした人もいたそうだが、十分頷ける話である。
水口は、それほどに徹底しているのだ。無造作どころか緻密極まりないアートワークである。そこにはある種の執念すら感じる。では、作者はそこまでして一体何を主張しようとしたのだろうか。一通りの驚きの後には、鑑賞者はこうした問いと向き合わざるを得なくなる。