Tape Painting(Gray floor)
ひとつ言い得ることは、水口による一連の作品は「絵画作品」だということである。そこで私たちは、作者が絵画という文化や振る舞いそのものを問い直そうとしているのだと考えることができる。分かりやすい例が、この写真の作品《Tape Painting(Gray floor)》である。
床に置かれたキャンバス。その上を白いテープが横断している。むろん、芯を除いたテープ部分はすべて絵具でつくられている。その意味で、この作品《Tape Painting(Gray floor)》は絵画に分類することができる。だが仮に、絵画を何らか特定の支持体の上に絵具で描かれたものの総体とするならば、本作はもはやどこからどこまでが絵画なのかは分からない。何しろ、すでにテープはキャンバス(支持体)の枠をはみ出しており、だらしなく床面へ伸びているのだ。床はもちろんのこと、テープの芯だって、支持体と言えば支持体だ……。
しかしどうだろう。この小さな芯に巻かれたテープを見ていると、そうした形式的な議論などどうでもよくなってしまいそうである。そのあまりに見事な出来栄えに、かえって脱力させられてしまうのだ。むしろ目の前にあるのは、圧倒的な「リアリズム」と、もはや笑うしか他ない「ナンセンス」、この技術論と意味論の間にぱっくりと口をあけた巨大な穴である。
たしかに美術鑑賞の場面においては、一定の知識を基礎とした作品の分類が役に立つこともある。しかし同時に、知識や解釈を超えていくのが芸術なのだ。そのことは、「∞」(無限)というタイトルによっても示唆されている。ならば私たちは、まずは穴の中へ入り込んでいくしかない。考えるのはそれからだ。
(取材・文=斎藤誠)
■「∞」展
作家名:水口鉄人
会場:Gallery t 東京都台東区柳橋1-9-11
会期:2015年7月23日~8月12日 ※日曜及び月曜は休廊
時間:11:00~19:00
HP: http://www.toho-beads.co.jp/tbs/galleryt/galleryt031.html
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