麻原彰晃の三女・アーチャリー「心の奥底にある、『死にたい』」/インタビュー

■父との関係が生に繋ぎ止めてくれた

ただ、新実が麗華さんの希死念慮を悟っていたわけではなく、たまたま麻原が麗華さんを呼んだだけだった。

麗華さん「呼ばれた理由は、『勉強をしたのか?』という確認でした」

 麗華さんと麻原とのコミュニケーションの中で、彼女が幼いころに記憶していることのひとつは、「勉強をしたのか?」と聞かれることだった。

麗華さん「このとき、嬉しかったので覚えているのです。家出しても、何をしても気づかれないことが多かったので。こうやって呼んでくれるのが父だけだったように思います。また父は、叱った後は必ず抱きしめてくれました。父とのスキンシップは多かったように思います。逆に母とはまったくありませんでした」

 麻原なりの「父親としての愛情表現」だったのかもしれない。また自身の希死念慮のことを誰にも話さなかったわけではなく「飛び降りようと思った」という話は周囲にしていた。しかし、「危ないからやめてくださいね」と言われるだけで、誰も心配していると感じなかったという。だからこそ、今でも見捨てられないかと不安を感じてしまうそうだ。

 麻原逮捕前は、機能不全家族でありながらも、「父という安全地帯があっての辛さ」だった。しかし、逮捕後は「生きづらさ」の質が変わる。「安全地帯がなくなってからの辛さ」となる。この時期、麗華さんはノコギリで腕を傷つけ、記憶までなくし、自殺未遂も経験した。

麗華さん「日本が核爆弾を落とされて、私だけが生き残った。そして、アメリカに救出された。そのだけ世界が壊れたのです。しかも、本当に救出されたのならいいですが、捕らわれたようなもの。幸せを感じることはありませんでした」

 希死念慮が続いていた麗華さんはずっと「いつ死んでもいい」と思っていた。しかし、手記を出してからは心の整理がついたため、少しは楽になったという。


■捨てない父との過去

麻原彰晃の三女・アーチャリー「心の奥底にある、『死にたい』」/インタビューの画像2

 5歳のときに、麗華さんはホーリーネーム(出家信者に与えられる、オウム真理教内の、宗教名)を麻原から付けられる。ウマー・パールヴァディー・アーチャリー、「ウマー・パールヴァディー」は、オウムの主宰神であるシヴァの妻の名前。<いたずら好きというイメージ>(P.47)が由来だ。

 ただ、最近では、その名前を捨てなさいと言われることもある。しかし、麗華さんにとっては馴染んだ名前で、自身の中では信仰と関連しているわけではないという。

麗華さん「過去も含めて、私は私でいたい。だから、積極的に名乗るつもりはないですが、捨てるつもりもない」

 麗華さんの話を聞いていると、覚悟のようなものを感じた。社会との折り合いをつけるために、例えば、ホーリーネームにしても「過去と決別するために、捨てました」と言ったほうが受けがいいのは明白だ。しかし、その社会的な「受け」を気にせずに、「わたしはわたし」としての生き方を選んでいる。また、「父とは決別した」と書けば、より「受け」はいいかもしれないが、父としての麻原に対する愛情も随所に記されていた。その意味で、私は麗華さんの言葉に「正直さ」も感じる。

 公安調査庁は麗華さんを、教団の後継団体のひとつで主流派のアレフの実質的な役員としてみている。一方、麗華さんは公安調査庁に対して、幹部の認定の取り消しと、名誉毀損の損害賠償を請求。日弁連にも人権救済申し立てを行っているが、実質的には門前払いで、人権救済事件としては取り扱わないとされている。
(取材=渋井哲也)

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