「レイプした男に恋をした」 12歳で性奴隷になった女が振り返るウガンダ内戦の非情

 ある日、ウガンダ政府軍がLRAを攻撃し、戦闘に巻き込まれたでプリサさんは太ももと腕を撃たれて負傷してしまう。すると、動けなくなったプリサさんをオングウェンが抱きかかえて救出、回復するまで看病してくれたことがあったのだという。

 「私は彼がいなかったら殺されていました。撃たれて死ぬ寸前だったのです。あの時の彼を忘れられません。彼が私を支えてくれるのを見て、愛情を感じました」(プリサさん)

 しかし、性奴隷としての立場に変わりはない。2011年、オングウェンの外出中を見計らって、プリサさんは幼い子ども2人を抱えて脱出を試み、ついに、9年間を過ごした監禁場所から逃れることに成功。後に逮捕されたオングウェンは、現在、数々の戦争犯罪により国際刑事裁判にかけられている。

「(脱出時は)気が動転しました。自分の身が安全かどうかわからなかったからです。ですがその後、『とにかく逃げてみよう。きっと誰かが助けてくれるはずだ』と考えたのです」(プリサさん)


■性奴隷を抜けだしても、過酷な日々は続く

 無事に祖国ウガンダへと戻ることができたプリサさんだが、その暮らしは非常に苦しいものだ。子育てをしながら、生きるために木炭を売り、家の食事や皿洗い、小屋の掃除などに追われる日々。寝る間もなく働いても、子ども1人を最も学費が安い学校へ通わせることしかできない現状だ。さらにプリサさんの両親もすでに亡くなっており、家族のサポートもない。この状況が、彼女の社会復帰をとりわけ難しいものにしているのだ。

 現在プリサさんは、LRAによって少年兵士や性奴隷として搾取されていた被害者たちを手助けするいくつかの団体から、医療費などの援助を受けている。「囚われていた時よりも現在の暮らしは楽だ」と語るプリサさんだが、彼女が本当に望むものは“子どもたちの父親”、つまり(望まぬ形だったとはいえ)プリサさんを拉致して性奴隷にした、あのオングウェンを取り戻すことなのだという。彼女は、オングウェン恋しさのあまり泣き崩れることもある。現在オングウェンはオランダのハーグで拘留されているが、プリサさんは「公判期日以外はオングウェンが家族の元へ戻り、子どもたちを支える父親として暮らすことを許されるべきだ」と主張している。

 専門家によると、プリサさんの態度には、誘拐や監禁事件の被害者が犯人と長時間過ごすことで相手に同情や好意を抱きやすくなる「ストックホルム症候群」の兆候が見られるという。しかし、彼女のように若くして極めて過酷な環境の中に身を置けば、ふとした優しさを見せられるだけで、その心を支配されてしまうのも無理もない話かもしれない。

■テロ組織に指定されたLRAとはどんな組織なのか

 さて、最後にプリサさんの苦しみの元凶であるウガンダの反政府武装勢力、「神の抵抗軍」(LRA)について触れておこう。

 ジョセフ・コニーにより1987年に結成されたこの組織が、現在までに拉致してきた少年少女の数は軽く6万人を超え、そのうち85%を戦闘員に育て上げたと考えられている。プリサさんの夫であるオングウェンも、もとは拉致されてきた子どもであったことが本人の証言でわかっている。拉致してきた少年を兵士として、そして少女を報酬として性奴隷にする非道さから、アメリカ政府によってテロ組織に指定されている。

 口答えする者には容赦なく耳や口を切りつけ、脱走を試みた者は問答無用で殺害するという残忍さもLRAの特徴のひとつである。彼らの暮らしは1つの場所からまた別の場所へと頻繁に移動を繰り返し、食物や暮らしに必要な品などを見つけながら屋外で生活をすることが多い。妊娠した女性が移動中に産気づけば、その場で出産させ、新生児を背負わせて行進を続けるという耳を疑うような生活であったとの証言もある。リーダーのコニーはいまだに逃走中である。

 幼くして拉致され、見知らぬ男の性奴隷として暮らしたプリサさん。このようなケースは、まだまだ数限りなく存在するのだろう。すべての少年少女が、安全で幸せに暮らせる世界が訪れることを願ってやまない。
(文=清水ミロ)


参考:「Daily Mail」、「BBC」、「Invisible Children」、ほか

※ 本記事の内容を無断で転載・動画化し、YouTubeやブログなどにアップロードすることを固く禁じます。

関連記事

    人気連載

    danger
    イタコ、霊媒、エロ祈祷…エログロナンセンスな超常現象ドキュメンタリー『恐怖・怪奇・悪霊 超常現象の世界』とは?

    イタコ、霊媒、エロ祈祷…エログロナンセンスな超常現象ドキュメンタリー『恐怖・怪奇・悪霊 超常現象の世界』とは?

    ※こちらは2020年の記事の再掲です。 ――絶滅映像作品の収集に命を懸ける男・...

    2024.02.27 08:00奇妙
    青酸カリで人を殺すのは意外と難しい。推理小説のトリックは概ね間違いだった!?

    青酸カリで人を殺すのは意外と難しい。推理小説のトリックは概ね間違いだった!?

    【ヘルドクター・クラレの毒薬の手帳 第1回、青酸カリ/後編】  ※本記事は2...

    2024.02.07 08:00科学
    【毒薬の手帳】ググっても出てこない、青酸カリの本当の話

    【毒薬の手帳】ググっても出てこない、青酸カリの本当の話

    本記事は2015年に掲載された記事の再掲です。 【ヘルドクター・クラレの毒薬の...

    2024.02.06 08:00科学
    九州地方で正月に行われていた飲尿儀式の伝統があった!?

    九州地方で正月に行われていた飲尿儀式の伝統があった!?

    ※本記事は2018年の記事の再掲です。 【日本奇習紀行シリーズ】 九州地方 ...

    2023.12.30 08:00奇妙
    運気を爆上げして「引き寄せの法則」を発動!! 激動の時代を生き抜くための波動グッズ3選

    運気を爆上げして「引き寄せの法則」を発動!! 激動の時代を生き抜くための波動グッズ3選

    癒しフェア 2024in大阪 広瀬学 講演 「アリス矢沢透のなんでも応援団!内...

    2024.04.19 10:00スピリチュアル

    「レイプした男に恋をした」 12歳で性奴隷になった女が振り返るウガンダ内戦の非情のページです。などの最新ニュースは好奇心を刺激するオカルトニュースメディア、TOCANAで

    トカナ TOCANA公式チャンネル