遺体解体「埼玉愛犬家連続殺人事件」の本当の闇と冤罪の可能性…「検察庁でセックス」などの司法取引あった!?

 2010年に公開された園子温監督・脚本の映画『冷たい熱帯魚』をご存じだろうか。猟奇的な連続殺人事件を凄惨なタッチで描き、R18+の指定を受けながらも数々の映画賞を受賞したという異色の作品だ。全編が狂気に満ちていると評されるが、とりわけ何度も映し出される、犯人たちが遺体を細かく切り刻むシーンは吐き気を催すほどのリアルさだ。

 だが、これは全くの作り話ではない。この映画は、1993年に発生した「埼玉愛犬家連続殺人事件」を下敷きにしており、遺体を細かく解体して川に流すことで証拠の隠滅を図るくだりなどは実際にあったこととされている。今回紹介する『罠』は、今となっては人々の記憶からほとんど忘れ去られている「埼玉愛犬家連続殺人事件」の真相に迫るノンフィクションだ。

遺体解体「埼玉愛犬家連続殺人事件」の本当の闇と冤罪の可能性…「検察庁でセックス」などの司法取引あった!?の画像1『罠~埼玉愛犬家殺人事件は日本犯罪史上最大級の大量殺人だった!』

 20年以上も前の事件を今さらほじくり返して一体何になるんだろうかと思う人もいるかもしれない。だが、この事件には日本の司法における大きな問題点が関係しており、それを知れば誰しも無関心ではいられなくなるに違いない。

 この連続殺人事件で裁かれたのは、ペットショップ経営者の男性と元妻、そして従業員の男性の3人。男性と元妻は互いに対等の立場で共謀して殺人に至ったと認定され、ともに最高裁で死刑判決が確定。経営者の男性は2017年3月に東京拘置所内で病死。元妻は殺人には関与していないとして再審請求を続けている。従業員の男性は死体損壊の罪に問われて3年間服役し、1998年に出所している。この結果だけを見れば、経営者の男性と元妻が共謀して殺人を犯し、従業員が遺体の処理を手伝わされた――という事件の構図が想像できる。

 だが、この度出版された『罠』(深笛義也・著)を読み進めていくと、この構図が本当に正しいものだったのかが次第に疑わしく見えてくる。経営者の男性と元妻の供述が食い違い、物証もほとんどなかったため、真相解明を急ぐ警察・検察は従業員の供述をもとに事件の構図を組み立てていった。供述を引き出すために従業員に対して数々の便宜を図ったことも明らかになっており、求めに応じて妻を検察庁に呼び、庁内の一室でセックスするのを黙認していたという証言すらある。

 これは、一種の司法取引であった。事件に関して積極的に供述すれば罪を軽くしてやるぞ、というわけである。事実、当初は「しゃべれば起訴されない」とまで従業員に告げられていたというのだ。この割りを食ったのが元妻だ。元妻は一貫して殺人への関与を否定し、それを覆すだけの証拠もなかったが、「従業員が関与していない以上、元妻が関与していないと殺人が成立しない」という理由で殺人の罪に問われたのだ。検察は元妻を殺人犯に仕立てるため、あらゆる意図的な誤認をした。たとえば、特定の日にどこで何を買ったかの記憶が間違っていたことを取り上げて「元妻の証言は信用できない」としたのだ。だが、同様に記憶が誤っていた従業員の証言が問題視されることはなかった。

 経営者の男性は真実を語らずに、今年3月に獄死した。今となっては、事件の真相は永遠に明らかにならないのかもしれない。日本の司法においては「早く口を割った者の供述が信用される」という現実が重くのしかかる。だが、当時の裁判記録や数々の証言を綿密に追った本書を読んで、ぜひ自分なりの解釈を導き出してほしい。読み終えたあなたはきっと、これまでよりずっと日本の司法に目を向けていきたいと思うようになるはずだ。

TOCANA編集部

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