1987年版「ピタゴラ装置」? ダダ映像『The Way Things Go』が伝えるガラクタの魅力と人生哲学

【拝啓 澁澤先生、あなたが見たのはどんな夢ですか?~シュルレアリスム、その後~】――マルキ・ド・サド、そして数多くの幻想芸術……。フランス文学者澁澤龍彦が残した功績は大きい。没後20年以上たったいま、偉大な先人に敬意を払いつつ、取りこぼした異端について調査を進める――

1987年版「ピタゴラ装置」? ダダ映像『The Way Things Go』が伝えるガラクタの魅力と人生哲学の画像1画像はマルセル・デュシャン「Wikipedia」より

「マルセル・デュシャンの理想の追求は、大きな可能性があることを示している」(ニューヨーク・タイムズ2007年6月15日)

 ニューヨーク・タイムズ紙にこう評価された作品がある。

 デュシャンといえば、既成の価値や概念を否定する芸術運動「ニューヨーク・ダダ」のダダイスト。シュルレアリスムとは少し違うかもしれないけれど、細かい話は置いておいて(起源はどちらも同じようなものだ)、今回はそのデュシャンの“末裔”とも呼ばれる2人組アーティストの映像作品「事の次第」を紹介したい。


■『The Way Things Go』

 余計な説明は省くが、この映像、どこかで見覚えがあると思う読者も多いのではないだろうか? そう、この動きはNHK教育で放送されている子供向け番組「ピタゴラスイッチ」のピタゴラ装置だ。表面上の映像は殺伐としていて、およそかわいらしさとは縁遠いけれど、仕組みはピタゴラ装置そのもの。

 ちなみにこの作品が制作されたのは1987年なので、もしかしたらピタゴラスイッチの制作者はこの映像を参考にしたのかもしれない。


■ニューヨーク・ダダを継承した作者2人組

 作者はペーター・フィッシュリ(1952年生まれ)とダヴィッド・ヴァイス(1946年生まれ)というスイスの2人組。ともにチューリッヒの生まれである。2人はともにいくつかの教育機関で美術教育を受けたのち、1978年に出会い、すぐに意気投合。即座にミグロス(Migros)というロックバンドを結成している。これがはじめての2人の共同作業だが、後に映像作家として認知されたのにもかかわらず、最初の活動は映像とはまるで無関係の音楽、しかもロックというところがなんとも好ましい。

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