1987年版「ピタゴラ装置」? ダダ映像『The Way Things Go』が伝えるガラクタの魅力と人生哲学

■フィッシュリとヴァイスが“デュシャン的”と呼ばれる理由

 ちなみに、彼らのバンド名のミグロス(Migros)はスイスの大手スーパーの名前である。日本でいえばたとえば「イオン」などをそのままバンド名にしてしまったようなもので、社名をバンド名に転用するというのは、つまり「既成品を文脈を入れ替えて再配置する」という、まさにデュシャンの方法そのものだ。

 のちに彼らはニューヨーク・ダダあるいはデュシャンの末裔と評価されることになるが、その素質は活動の最初から十分にあったのかもしれない。


■The Way Things Go

 そして、そんなデュシャン的方法を追求してできたのが、映像作品『The Way Things Go』だ。タイヤ、椅子、ろうそく、風船、脚立、バケツ、ペットボトル、そしてやかん。こういった日常品を現実の喜劇役者のかわりに配置するというのが当初のコンセプトなのだが、たしかにぎこちなくもどこか哀しい日用品の動きは、喜劇俳優であるチャールズ・チャップリンやバスター・キートンを彷彿とさせる。


■静かな世界

 しかし、同時にこの映像を見ていて筆者が感じるのは、妙な静けさだ。AがあるからBがある。BがあるからCがある。よってAがあるからCがある。見るたびに、そんな簡単な、しかし堅固な論理の世界が眼前に横たわっているのを強く感じる。引火や爆発など、危険なシーンが続くのに心が落ち着くのは、現実の世界がそれほど混沌としていることの裏返しだろうか?
(文=天川智也)

※参考映像『The Way Things Go

1987年版「ピタゴラ装置」? ダダ映像『The Way Things Go』が伝えるガラクタの魅力と人生哲学の画像2

■天川智也(あまかわ・ともや)
1980年生まれ。早稲田大学仏文科卒業。古今東西の奇書を求めて日々奔走している。おもな作品にNHKドラマ『ルームシェアの女』(フランス語作詞)等がある。

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